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「あ……椛」
夕方になる頃、椛は廊下で群青と鉢合わせする。彼は身なりを整えていて、これからどこかへいく、といった風だ。
「群青、どこかいくの?」
「んー、買い物っていうか……ああ、そうだ、椛も一緒にいくか」
「?」
「紅に髪飾り買ってやろうかと思って。前つけていたやつ壊れちゃったしな。あいつやっぱり、なにか付けていたほうが可愛いと思わねえ?」
「だったら紅と一緒にいったほうが……紅が欲しいっていったものを買ってあげたらいいんじゃないかな」
「驚かせたいだろ。こっそり買って突然渡したほうが絶対喜ぶから!」
ふふん、と笑った群青をみて、椛は吹き出した。なにやらわくわくとしたような彼の表情が、おかしかったのだ。
「群青って、紅のこと大事にしてるよね」
「何年一緒にいると思ってるんだよ。あたりまえだろ」
いつも、顔を合わせれば口喧嘩、という場面ばかりみているが、群青が紅を大切にしていることを、椛は知っている。彼女が喜ぶ姿をみたいんだな、と察して、なんだか椛も嬉しくなってきた。そして、そんな優しい群青のことを……好きになってよかった、なんて思う。
「で、どうする? いく?」
「うん。僕も一緒に選びたい」
「……へへ。じゃあ、デートだな」
「……えっ」
に、と群青は笑った。きゅんとしすぎて、いっそ、ぎょっとしてしまう。ぼっと熱くなる顔を抑えて、椛は歩き出した群青のあとに、ついていった。
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