261 / 353

40

*** 「あ……椛」  夕方になる頃、椛は廊下で群青と鉢合わせする。彼は身なりを整えていて、これからどこかへいく、といった風だ。 「群青、どこかいくの?」 「んー、買い物っていうか……ああ、そうだ、椛も一緒にいくか」 「?」 「紅に髪飾り買ってやろうかと思って。前つけていたやつ壊れちゃったしな。あいつやっぱり、なにか付けていたほうが可愛いと思わねえ?」 「だったら紅と一緒にいったほうが……紅が欲しいっていったものを買ってあげたらいいんじゃないかな」 「驚かせたいだろ。こっそり買って突然渡したほうが絶対喜ぶから!」  ふふん、と笑った群青をみて、椛は吹き出した。なにやらわくわくとしたような彼の表情が、おかしかったのだ。 「群青って、紅のこと大事にしてるよね」 「何年一緒にいると思ってるんだよ。あたりまえだろ」  いつも、顔を合わせれば口喧嘩、という場面ばかりみているが、群青が紅を大切にしていることを、椛は知っている。彼女が喜ぶ姿をみたいんだな、と察して、なんだか椛も嬉しくなってきた。そして、そんな優しい群青のことを……好きになってよかった、なんて思う。 「で、どうする? いく?」 「うん。僕も一緒に選びたい」 「……へへ。じゃあ、デートだな」 「……えっ」  に、と群青は笑った。きゅんとしすぎて、いっそ、ぎょっとしてしまう。ぼっと熱くなる顔を抑えて、椛は歩き出した群青のあとに、ついていった。

ともだちにシェアしよう!