264 / 353

43

*** 「……!」  一日も終わるころ、椛は寝室に向かう途中で、まだ居間の灯りがついていることに気付く。両親が話し込んでいるのだろうか。おやすみの挨拶をしようと扉を少しあけたところで、中から話声が聞こえてくる。 「……今日ね、椛へのお見合いの話があったわ」 「お見合い? ああ、そうだな……もうすぐ椛も18だもんな」 「東城寺家のお嬢さん。とてもかわいらしい娘さんだった」 「ああ……でも、まだ早いんじゃないか。椛には大学校へもいってほしい」 「……そうねえ。結婚するのは大学校卒業してからでもいいけど、今から仲良くなっておいてもいいと思うわ」 「……っ」  どくんどくん。  激しく心臓が高鳴っている。そうだ、すっかり忘れていた。自分は、財閥の家の、一人息子。跡取りをつくらなくてはいけない。こればかりはわがままを言えることではないのだ。それに「宇都木家の子供だから」というだけの問題ではない。ここまで育ててくれた親に孫の顔もみせないというのは、ひどい親不孝になるだろう。……将来は、女性と結婚して、子供を産まなくてはいけないんだ。 「……」  きん、と頭が痛くなる。 「……群青」  ……僕はどうすればいいんだろう。

ともだちにシェアしよう!