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「おつかれ、椛」
パーティーもひと通り落ち着き、椛は用意された部屋に戻った。今回のパーティーは社交場として使われることの多い屋敷を貸しきってのパーティーだ。大広間の他にも個室があって、寝泊まりはそこですることになっている。まだ話に夢中になっている人も多かったが、椛はあまり夜更かしは慣れていない。自分の部屋に戻ろうとすると、群青も一緒についてきてくれた。
「群青、いいの? まだ色んな人と話していたら?」
「んー……」
窓際で、ジャケットを脱ぎながら椛は群青に話しかける。目立つ容姿の群青は、パーティーの途中もたくさんの人に話しかけられていた。地位が高いというわけではないが、長い年月を生きているため、話もなかなかに上手いというのがあるだろう。そんな彼が、まだ早いこの時間にこの部屋にいるのを、勿体無いと椛は思ったのだ。
しかし、群青はふっと笑って部屋をでていこうとしない。
「椛」
「ん?」
「外、綺麗だな」
「え? あ、ああ……本当だ。屋敷の灯りで紅葉が暗い中に映えている」
群青に言われて、椛は窓に近づいて外の景色を眺めてみる。暗闇に、真っ赤な葉がぼんやりと浮かんでいる。屋敷の庭にある湖が、きらきらと光を反射していて美しい。思わず見惚れていると……とん、とすぐ横に群青が手をついた。はっとして振り返れば、いつのまにか、自分は群青と窓の間に閉じ込められていた。
「……っ」
どくん。心臓が高鳴った。距離が近い。群青の顔に影がかかっていて、何故だか直視できない。
「18っつったら、もう妻をむかえられる歳だな。大人になったってわけだ」
「……うん、」
「俺からは、まだ言えていなかったよな」
く、と群青が身をかがめてくる。どくん、どくんと心臓が激しく鳴っている。目眩がするほどに息苦しい。
「……お誕生日おめでとう、椛」
唇を重ねられる。いつもと違う客用の高級感溢れる部屋、ドレスコードに身を包んだ彼、ほんのりと洋酒の香りがするキス。夜景を背後にした、どこか大人のこのキスに、椛は酔ってしまいそうになった。くらくらとしてきて、まともに立っていることすら難しい。
「は……」
「……椛……こっち」
唇を離した群青が、じっと椛を見つめて手を差し出してくる。エスコート、というやつだ。夜景の光をわずかにあびたその顔が、酷く大人っぽくてドキドキしてしまう。椛がそっと群青と手を重ねると、ベッドまで誘導される。
「……っ、」
ちゅ、とまたキスをされる。ちゅ、ちゅ、と触れるだけのキスを何度もされ、服を脱がされてゆく。おかしくなってしまいそうだった。くしゃ、と整えた髪を乱された瞬間に、腰が抜けそうになってしまった。
「あっ……」
半分ほど服を脱がされたところで押し倒される。群青は椛にまたがって、ジャケットを脱いだ。タイをはずして襟をぬるめ、ふう、と一息つく。整えた髪をかきあげて少しだけ乱す。見上げているだけでも息が止まりそうなほどにどきどきしてくる。
「……今日は、途中でやめないけど。いい?」
「……っ、……うん」
ふ、と群青は微笑んだ。唇を重ねられ、身体を撫でられる。舌で唇を突かれて侵入をゆるせば、しびれるほどの熱に咥内が侵される。無我夢中で舌を伸ばし、彼の背に腕を回し、椛も必死に行為に耽る。
「んっ……ん、」
優しい手つきで群青は、椛の身体に触れた。ゆっくりと温めてゆくように、丁寧に全身を撫でてゆく。胸のあたりをいじられるとくすぐったくて、椛は身を捩った。
「あっ……、」
唇を離すと、群青と目があった。蒼い瞳が、じっとこちらを見下ろしている。ぞくぞくとしてきて、椛はぎゅっと目をとじる。くす、と彼が笑う声が聞こえてきて、かあっと顔が熱くなった。
群青は唇で、椛の身体を愛撫し始めた。首筋、鎖骨、……わざと音を立てながら、じっくりと触れてゆく。ちゅ、と音が聞こえる度に、椛の身体はぴく、と震えた。
「あっ、……あ、……」
ぞく、ぞく、と甘い波紋が生まれ出る。群青が口付けを落とすたびに、じわりじわりと熱が体内に広がってゆく。強い快楽がやってくるというわけではなく、ゆったりと、静かに波が押し寄せてくるような、そんな心地よさが椛を支配していった。
「ん……」
再び、唇を重ねられる。それと同時に、なかに指をいれられた。圧迫感がせまってきて、椛は群青の背にしがみつく。ゆっくりとなかをほぐされてゆくと、じわじわと熱くなってきた。身体をこわばらせている椛を安心させるように、群青は優しく唇をついばんでくる。目をあければ優しげな眼差しがこちらをみていて、きゅ、と胸がしめつけられる。「大丈夫」と囁かれながら何度もキスをされていると、彼に全てを委ねようと、そう思えてくる。
「んん……、あっ……」
指を引きぬかれ、椛は思わず声をあげた。からっぽになったそこが、なんとなく寂しい。体を起こした群青に見下されて、くらりと意識が飛びそうになる。
「あ……」
群青のものを見た瞬間、椛はかあっと顔を赤らめた。男のものをみたところでそんな反応をする必要なないのだけれど、それが自分にはいってくるのだと思うと、緊張してしまう。目をそらし、ふるふると瞳を震わせる椛をみて、群青は苦笑した。脚をぐっと押し広げられて、ほぐしたそこに熱をあてがわれる。
「……掴んでろ」
「うん……」
手を重ねられて、指をからめる。ぎゅっと握りしめれば、なんとなく安心した。
「あ……あっ」
ひとつになってゆく感覚に胸が満たされる。最後まで入ったとき、感極まって涙が溢れてきた。
「ばか、泣くな」
「……うん、……」
群青の笑顔をみて、さらに涙がでてきてしまう。なんだかおかしくなって椛が笑えば、群青が額に口付けてきた。
身体を揺さぶられる。ベッドが軋む。少しずつ抽挿がはやくなっていき、絶頂へ追いやられていく。
「あっ、あっ、あっ」
「……ッ」
ぎゅ、と椛が手に力を込めると、群青が椛の顔に口付けをたくさん落としてきた。「痛くないか」「大丈夫か」気遣いの言葉を吐きながら、優しいキスの雨を振らせてくる。熱はだんだん蓄積していって、椛は身体をよじりながら甘い声をあげ続けた。
「だめ、……いく、……あっ、いく……」
「椛……」
ぐ、と群青が唇を重ねてきた。そして、それと同時に思い切り最奥を突かれる。びくん、と身体が大きく跳ねて、そして身体が収縮してこわばってゆく。脚でぎゅっと群青の腰を抱いて、つまさきがぴんと伸びて……椛はイッてしまった。びくびくと椛が震えている間、群青が速度を落としながら突いてくる。身体が揺さぶられるたびに椛が甲高い声をあげると群青が「もう少しがんばって」と囁いた。
「ん……」
「……は、」
しばらく律動を繰り返して、群青も達する。はあはあと椛が荒い呼吸をくりかえていると、群青がよしよしと頭を撫でてきた。椛はとろんとした顔をして、群青にすがりつく。
「……群青……きもちよかった……?」
「……ああ」
「よかった……」
群青に全てを任せてしまっていて、彼は満足できただろうかと不安がる椛に、群青は微笑む。少し汗ばんだ彼の姿に、くらくらした。
「……もっと、群青のこと満足させられるように……がんばるから……」
「……そりゃあ……楽しみにしている」
ふ、と群青は笑って、椛にキスを落とす。じんわりとした怠さが残る身体をまどろみにまかせ、二人はしばらく、キスをしていた。
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