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*** 「ああ、群青。ありがとう」  着物を受け取った椛は、群青ににっこりと微笑みかけた。穏やかなその笑みは、もうすっかり大人のものだ。容姿だけなら、椛のほうが群青よりも歳上である。 「花乃も、もうすっかり大きくなったな」 「え? どうしたの突然。……うん、そうだね、随分背も高くなったかなあ」 「……恋愛相談された」 「えっ? そんな話僕はきいたことないんだけど?」 「父親にはし辛いだろ」 「その話を僕にしてもいいの?」 「……んー、じゃあ聞かなかったことにしてくれ」  ソファに座る椛の隣に、群青も腰をおとす。外出のために着ていたジャケットを脱いで、タイを緩めていると、その様子を椛がじっと見ていた。 「……群青もなんか変わったね?」 「……老けたとか言ったら怒るぞ」 「老けてはいないよ、見た目は若い! なんというか、顔つきが?」 「……」  自分ではそんな感じしないんだけど、と群青は頭をかいた。そんな群青の気持ちを汲んだのか、椛は苦笑している。 「……群青」 「なんだ」 「群青は今、幸せ?」 「ああ。生ぬるく」 「生ぬるくってなに?」  へ、と群青が笑う。ぐしゃぐしゃと椛の頭を撫でてやると、椛は「子供扱いするな」とその手を払った。 「おまえはどうなの」  そのとき、扉から文がはいってくる。二人で彼女のことを見つめれば、彼女はきょとんと不思議そうな顔をしていた。そんな顔をみてか椛は吹き出してしまう。そして、笑声混じりに、群青にだけにわかる声で言った。 「幸せだよ」

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