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「メル、おいで。おいしそうなクッキーをいただいたんだ」
自宅に帰ってのんびりとしていたメルを呼ぶ声。メルの義父である、トレーシーのものだ。その声をきくなり、メルは飛び起きてトレーシーのもとへ駆け出してゆく。
「あっ、俺、紅茶淹れるよ!」
「そうかい、ありがとう」
トレーシーがにっこりと笑うと、メルは照れたようにはにかんだ。キッチンへ向かうと、トレーシーが大好きな銘柄の紅茶の缶をとりだして、鼻歌を歌いながら紅茶をつくりだす。
「義父さん、そのクッキー誰からもらったの?」
「アラベラさんだよ。この前メルが悪魔退治の依頼を受けた……。アラベラさん、すごく感謝してくれてね。私もなんだか嬉しいよ」
「えっ……え、えへへ、義父さんが喜んでくれたならなによりかな……」
紅茶をいれたカップをテーブルまでもっていくと、トレーシーがメルの頭をわしゃわしゃと撫でる。くすぐったそうに笑うメルを、トレーシーは微笑ましそうにみつめていた。
メルがエクソシストになろうと志したのは、12歳のころ。自分によくしてくれたトレーシーになにか恩返しができないかと思ったのがきっかけである。エクソシストというのは誰でもなれるものではないが、幸いにもメルには適正があったようで、今では町で椛と並んでトップを争うエクソシストだ。自分がエクソシストとして活躍することで、親であるトレーシーも感謝されることが、メルは嬉しかった。
「あ……! このクッキー食べ終えたら、俺、コニーの散歩にいってくるよ」
「ああ、頼んでいいかい。私は晩御飯をつくっているから」
そういえばまだ飼い犬の散歩をしていないということに気付き、メルは少し急いでクッキーを食べ始める。もったいないからゆっくり食べなさい、と笑われて、メルは恥ずかしそうにまた、笑った。
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