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日も沈むころ、椛は酒場できいたインキュバスを退治すべく、すみかと言われている森のなかを探索していた。薄暗い森のなかをランプを持って歩いていると、動物たちも寄ってくる。エクソシストとして腕に自信のある椛にとっては、悪魔よりも狼の類のほうが恐ろしかった。周囲に注意を凝らしながら、そろそろと歩いてゆく。
「……おやおや、こんなところに。どうしたの、可愛らしいお坊ちゃん」
「……!」
不意に自分に声がかかる。ハッとして椛が振り向けば、そこにはゾッとするくらいに整った容姿の男が立っていた。彼から放たれる、不自然なほどの色香。ああ、インキュバスだ。椛は直感的に判断する。
「……ちょうど、貴方を探していたんです」
「……僕を退治するために?」
「そうです……僕のこと、知っているんですか?」
「赤ずきんといえば、このあたりで有名なエクソシストだからねえ、知っているよ、当然」
インキュバスはふふ、といやらしく笑う。……無駄に会話をする必要などない。椛は首にかけたロザリオを手にとって、掲げる。――が、その瞬間、インキュバスは姿を消した。驚きのあまり目を瞠った椛は――次の瞬間、強い衝撃を背中に感じた。世界が反転している。見上げた先には、にんまりと笑ったインキュバス。すさまじいスピードで移動してきたインキュバスに、押し倒されたようだ。
「……僕のこと、なめていたでしょ」
「……な、」
「色魔だからって誘惑だけが上手いわけじゃないよ。エクソシストを食えるくらいには、力を持っている者もいる。もっとも……襲った相手を犯すことが僕の本懐なわけですので、」
インキュバスの手が椛の赤いコートにかけられる。そして、一気にボタンを引きちぎられる。
「君のことも犯してから食べるから」
椛はぎょっとして抵抗したが、存外にインキュバスの力は強く、コートが脱がされてゆく。まずいと思ってロザリオを握ろうとすれば、インキュバスはロザリオの鎖を椛の首から引きちぎって遠くへ投げてしまった。
「ま、待って……」
「いいねえ、その怖がっているの……可愛い。……ん?」
顔面蒼白の椛をみて、インキュバスが嗤う。しかし、かぶっていたフードもとれ、ほとんど身体がコートで覆われることがなくなったとき。インキュバスはぴたりと動きを止めた。おどろいたような顔つきでまじまじと椛をみつめ、ぐっと顔を近づける
「んん……? おまえ……エンジェリックジーン?」
「……ッ」
「わあ~、こりゃあラッキーだ。エンジェリックジーンは食うと格別に美味いっていうからな!」
コートを脱がした瞬間、インキュバスはなにかに気付いたようでそれはそれは嬉しそうにはしゃぎだす。椛はソレに気づかれたことに焦りを覚えたが、もう抵抗などできないためどうしようもない。嬉々として襲ってくるインキュバスにされるがままだ。
「ひっ……」
「おお……なんか肌も甘い味」
「やっ、……あっ……」
インキュバスの舌が、椛の首筋を這う。その瞬間、びりびりと強烈な熱が全身に広がっていった。それからは触れられるたびに身体のなかに波がゆれるような、まぎれもない快楽が生まれ出てきて椛は身を捩る。
「や、……ぁあっ……ひゃ、」
びりびりとコートの下に着ていたシャツも剥がれてゆく。あらわになった平な胸をインキュバスはぐりぐりと手のひらで揉みしだく。インキュバスの魔力だろうか、それだけでもたまらないくらいに気持ちよくて、椛の唇からはため息にも似た熱い吐息がこぼれる。いやいやと首を振ってささやかな抵抗を示しても、それをあざ笑うように快楽は増してゆく。頬を紅潮させ、虚ろに宙をみあげ、椛は善がることしかできなかった。
「はぁ、……あ……あぁ……ん」
「ほら、もっと可愛い声だして」
「んっ、ひゃああっ……」
きゅうっと乳首をつまみあげられて、椛は小さな悲鳴をあげる。びくんっ、と腰が跳ねてしまえばインキュバスは集中的に乳首を責めてきた。くいくいとひっぱって、くにくにと揉んで、刺激を強めていく。
「ひゃぁっ、……ん、……だめっ……あぁ……」
「気持ちいいでしょ? ほら、もっと鳴いて」
「あ、ぁあっ……!」
視界が白む。くらくらとしてきて、ぱちぱちとフラッシュが散るような、そんな感覚に襲われる。ああ、だめだ、もうだめだ……熱がふつふつと膨らんでいって、理性が崩壊しかけた、そのとき。
――甲高い犬の鳴き声。
「あっ、コニー吠えるなよ……ああすみません、驚かせて……」
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