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「メル! ごめん、もうちょっとだけ血を吸わせて欲しいんだ」 「や、やだって! 回復するっていっても痛いことには変わらないんだぞ!?」 「だからごめんって」 「そ、それにベリアルが体に不具合がでるとかなんとか」 「ああ、大丈夫! 不具合って別に病気になったりするとかじゃなくて、」  だん、とメルの横にノアが手をつく。ぎょっと目を瞠るメルの顔を覗き込み、ノアはにこっと微笑んだ。 「俺の吸血には、催淫効果があるってだけだから」 「さい、いん……?」 「えっちな気分になるだけだよ~! 大丈夫!」 「ちょ、ちょっと、待っ……」  拒絶も虚しく、ノアはまたメルの首筋に噛み付いた。  さっきの、原因不明の熱さはそれだったのか。火照りはどうやら治癒では治らないらしく、さきほどの熱もまだ身体に残っている。だから、また血を吸われたりしたら…… 「うっ、……」  歯が肉に食い込む痛み、吸血される不快感。そしてそれに伴って……じわ、と染み出すような熱が下腹部を中心に広がってゆく。一度の吸血ではそこまで強いものではなかったが、二回目となるとなかなかに強烈だ。しかも、メルが回復することを知ったためか、ノアは容赦なく血を吸ってくる。先程よりも長い時間吸われて、熱はどんどん蓄積してゆく。 「あ……あ、」  失血と、催淫効果と。両方が原因で、メルは意識が朦朧としてきてしまった。メルが全く抵抗しなくなったからだろか、ノアもさすがに血を吸うのをやめる。ぼーっとして何も言葉を発さなくなってしまったメルをみて、ノアは顔を青ざめさせた。 「め、メル……? 吸い過ぎた? 大丈夫?」 「ばか……ほんと、すいすぎ……」 「ご、ごめんね……!」  メルの様子がおかしい、と気付いたのだろう。ノアは今にも泣き出しそうな顔をしてメルに抱きついた。 「んんっ……」  ぎゅうっと抱きしめられて、メルはぴくりと身動ぐ。失血は、少しずつ回復している。でも、熱が収まらない。身体がじくじくと疼いて、抱きついてくるノアの体の筋肉を感じ取ると、どきどきしてしまう。ふ、と鼻を掠めるノアの匂いにもくらくらした。腰のあたりがじんじんする。ぴったりと体が密着しているため、少しだけそこがノアと触れ合って……気持ちいい。 「あ、……んん……」 「……メル?」  熱い下腹部を押し付けるように、メルは無意識に腰を振っていた。それに気付いたノアが、ぱっと体を起こす。 「あ……催淫効果。メル、エッチしたいの?」 「え……?」  言われて初めて、メルは自分が腰をノアに押し付けていたことに気づく。はっと顔を赤らめて、ぶんぶんと首を振った。 「ち、ちが……!」 「そのままだと苦しいもんね。エッチしようか、メル!」 「ちょ、ちょっと……ちがうって……」  ぐっとシャツをめくりあげられて、メルはノアを押しのけようと抵抗した。しかし、軽くその手は払われて、シャツを胸が露出するくらいまでめくられてしまう。 「ま、まって……」 「……」  催淫効果のせいで涙目になり、体内にこもる熱を逃がすようにはあはあと息を吐きながら見上げてくるメルを、ノアはじっと見下ろした。メルがふるふると首を振って、やめて欲しいと懇願してくれば、ノアの瞳はすうっと細められる。 「……思った以上にそそるね、メル」 「あ、あの……」 「大丈夫……怖くないよ」  ノアの手のひらが、するりとメルの体を撫でる。腹から胸元へ……ゆっくりと上へ、上へ。ぞぞぞ、と下から快楽が這い上がってきて、メルはぎゅっと目をとじる。そして、胸に辿り着いた手のひらが、くるくると円を描くようにして胸を優しく揉み始めると、メルは手の甲を唇にあてて身体を捩った。 「んんっ……」  ノアが両手で胸を揉み始める。女のように膨らみがないそこの、薄い筋肉をほぐすように、ぎゅ、ぎゅ、と。じわ……と身体の芯から熱がしみだしてゆく。 「やめ、……そういうこと、は……結婚する人としかしちゃだめ、だから……」 「俺達結婚するんだよ?」 「だから、しないって、ば……あぁんっ……!」  親指と人差指の側面で乳首を刺激された。その瞬間、ずくんっ、と下腹部が疼いてメルの身体が仰け反ってしまう。その反応をみたノアは、ふ、と微笑んで、こんどは指の腹で乳首をきゅうきゅうと揉み始めた。 「あんっ……あっ……あぁん……」 「結婚するからね。俺達はエッチしても大丈夫なの」 「やっ、やぁ……だめ、……魔族と、そんなこと、だめ……」 「愛に種族なんて関係ないから! メル……俺、メルのこと好きなんだよ」 「だめっ……だめ……かみさまが、……みてる……だめぇ……あぁん……」  かみさま、そうメルが言うと、ノアはちらりとメルの身につけているロザリオに視線を移す。銀色のチェーンが十字とメルの首を繋いでいる。ノアはにっこりと笑うと、ロザリオを手にとってそれに口付けてみせた。

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