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「俺は! おまえと結婚するつもりもないし、昨日のあれはエッチしてない! 未遂!」
「結婚はする! 昨日はメルのが可愛く喘いでくれたからエッチにカウントする!」
「あ、喘……ふ、ふざけんな! おまえの吸血のせいだろ! この馬鹿!」
店の外にでると、メルはノアに怒鳴りつける。メルが店からノアを引きずりだしたのだが、いつの間にかノアがメルの手を掴んで先導していた。るんるんと歩いているノアはメルの言葉を聞いているのかいないのか、どこか楽しそうだ。
「メルの町の人たち、みんないい人だね」
「えっ……? あ、ああ……みんないいやつだけど」
「結婚したら俺がこの町に来ようかなあ。メル、あの町から離れたくないでしょ?」
「あたりまえだ、俺はこの町を離れない……っていうか、結婚しないから!」
すれ違う町の人々が、メルに挨拶をしてくる。初めて見るノアに対しても、にこにこと優しい笑みを浮かべて手を振ってくれる。メルは引きずられるようにノアに連れられながらも、穏やかな町の雰囲気にあてられて怒りは徐々に治まってきた。
「……っていうかどこに向かっているんだよ」
「えーっと、デートしようかと思って。俺のおすすめの場所に!」
「……デートぉ? なんで俺がおまえとデートしなきゃいけないんだよ」
「すごく好きな場所だから、メルにみせてあげたいんだ」
くる、とノアが振り返る。太陽の日差しが、ノアの髪の毛にあたってきらきらと優しく光る。吸血鬼のくせに、太陽の下がこんなにも似合う。なんだか胸がきゅっとなって、だからむかっとして、メルはふいとノアから目をそらす。
「……暗くなる前に帰るから」
「うん!」
そっと手を引かれて、メルは歩き出す。ふわっと広がる胸のなかの違和感に、不快感は覚えなかった。
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