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***  ノアとは、日が沈むころに別れた。バラ園を出れば、もう人間界は空が赤に染まっていた。メルはそんな空を仰ぎながら、ふらふらと歩く。指先で首から下げたロザリオを弄び……空の緋色に溶けゆくような声で呟く。 「……俺は、罪人ですか、神様」  快楽の余韻が残る身体。またノアに会いたいと思う心。自分は熱心に神様を信じているわけではない、それでも悪いことをしているような気がした。トレーシーは「生きたいように生きろ」と言っていたけれど、まだ心を切り替えることができていない。 「……メル?」 「……ん」  ふと、自分の名を呼ぶ声が聞こえてメルが視線をそちらに向けると、椛が立っていた。赤いコートが少しだけ破けている。 「どうしたんだよ。悪魔でも祓ってた?」 「いや……逃げてた」 「強い悪魔だったんだ?」 「うん」  椛ははあ、と溜息をつくとフードを脱ぐ。目元に少しだけ隈ができていて、疲れているらしい、ということがわかる。 「もうすっかり僕がエンジェリックジーンを持ってるって悪魔の間で噂になってるみたい」 「そのさ、エンジェリックジーンってなに?」 「えー……簡単に言えば天使の遺伝子を持っているってことかな。僕はそれを持っているから悪魔祓いも他の人よりも少しだけ得意なんだよ」 「へえ、そりゃいいな」 「よくない! エンジェリックジーンを持っていると悪魔に狙われやすくなるの! 天使を食らうっていうのが悪魔の本能らしいから」 「ふーん、物騒だね」 「……他人事だと思っているでしょ」 「他人事だし」  椛はメルの進路に立っている。メルが歩いて行けば必然的に椛とすれ違った。近くで見れば思ったよりもコートが汚れていて、少しメルも椛のことが心配になってしまう。ぽん、とすれ違いざまに椛の頭を撫でてやった。 「……まあ、死ぬなよ」 「……」  そのまま振り返ることなく帰っていくメルを、椛はむっとしながら見つめていた。撫でられたところに触れて、ほんの少し顔を赤くする。 「……薔薇の匂い」  昼間に酒場に来た男とメルがどこかへ行っていた、というのを考えて、少しだけ胸が傷んだ。

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