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***  ノアが町にやってきてメルをデートに誘う……というのをはじめて一ヶ月ほどたった。特に関係が変わることはなく、メルのなかの想いだけが膨らんでゆく。拒否しても拒否しても真っ直ぐな想いを伝えてくるノアのことを、気付けばいつも考えるようになっていた。 「やあ、メルちゃん」  今日もどうせノアが来るんだろうな、と思いながらメルは酒場にやってくる。カウンターに座ればマスターが気さくに声をかけてきた。メルはちらりとメニューに目をやって、あ、と小さな声をあげる。 「新作できたんだ。これくれよ」 「んー、これ度数高いけど、大丈夫?」 「俺そんなに弱くねえって」  メニューに付け足してあった新しい酒を注文すれば、マスターはすぐにつくってくれた。すぐにそれに口をつけるメルの周りには、いつのまにか他の客も集まってきている。 「メルちゃーん、ねえ、メルちゃん」 「あー?」 「ノアとどこまでいったの?」 「……だからどこまでもいってない」 「うそだろー付き合って一ヶ月たってんじゃん」 「付き合ってない!」  町の人々はメルとノアの関係に興味深々だった。大好きなメルがノアにどんな風に可愛がられているのか知りたくはないが、普段他人にツンツンとした態度をとっている彼が恋人(町人にはそう映っている)にはどこまで許しているのか、というのが気になったのだ。メルが酒場にくるたびに、皆こぞってノアのことを聞き出そうとしていた。 「エッチしてるんでしょ?」 「してないってー」 「どこまで触らせたの?」 「変なこと聞いてんじゃねーよ」 「メルちゃんって敏感なほう?」 「うるさいなー」 「……酔ってる?」  少し強めの酒を飲んでいるせいか、ほんのりとメルの頬が赤い。呂律もいつもよりまわっていないように思われた。隣に座っていた男が、にやにやとしながらそっとメルの胸元に手をのばす。 「んー、エルド、なに、なにすんだよ」 「感度チェック!」 「はあー? んっ、あっ……」  する、と男の手がメルのシャツの中に入っていって、乳首をつまみ上げる。そうすればメルがぴく、と震えて喉を震わせた。 「なんだその反応! いつもそんな可愛い声をノアに聞かせてんの!?」 「あぁっ……ちょ、おまえ触ってんじゃねえよ! んっ、……あんっ……」  メルがぎゅっと目を閉じて、小さく喘ぐ。普段粋がっているメルの知らない表情に、周りにいた男たちはぎょっとした顔をした。頬を紅潮させ、悩ましげに眉を潜めて唇を噛む。きゅ、と乳首をつまむ指先に力を加えられるたびに、やめてと懇願するようにふるふると首を振る。 「んっ……ん、」  酒で酔っているからだろうか、あまり抵抗はしない。快楽に耐えるように震えているだけ。  ちょっとしたイタズラでやったはずなのに、あんまりにもそそる反応をするものだから、男は止められなかった。周囲の者たちも同じく、止めなくてはと思うのにもっとみていたいという欲が先行して、固まっていた。  くりくりとしつこく乳首を弄ってやる。もうちょっと可愛い顔をみたい、男が生唾をのんでメルのシャツをめくりあげようとした時―― 「ちょっとー! 俺のメルになにやってんの!」  バン、と勢い良く店の扉が開いて、ノアが入って来た。はっと驚いた店内の客たちは動きを止めてノアを凝視する。 「メルは、俺の! 勝手にいじめないでよ!」 「ま、まてノア、誤解だから!」 「誤解じゃないよね、メルの身体触ってたでしょ」  ノアはすぐに店内の状況を把握して、むすっとした顔をする。つかつかとメルに歩み寄ると、男の手をバシリと払って後ろから抱きしめた。 「メルも、なんで抵抗しないんだよ!」 「んー、ノア……?」 「うわ、酔ってる! 人前でこんな可愛いところ晒すんだったら酔わないでよ、メルー」  ノアはメルを抱きかかえると、店内の男たちをキッと睨みつけてそのまま出て行ってしまった。  嵐が去ったように店内は静まり返るが、一人の男がふと、ぼそりと言う。   「……メル可愛かったな」  それを皮切りに、一気に店内が湧いた。メルの身体を触っていた男に皆が群がって、口々にメルへの愛を叫びだす。 「あの顔いつもノアに見せてるんだな!? やっべー羨ましい」 「正直勃った」  しかし、再びメルに手を出せばノアが激情しかねないため、もう一度やってみようなどと考える者はいないようだ。悔しそうな顔をしながら、一瞬の幸福の余韻に皆浸っていた。

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