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酔ってぽわぽわとしているメルを抱えてノアは城まで辿り着く。そして寝室に入るとベッドの上にころんと転がしてやった。メルは気分が良さそうににこにこと笑って枕に顔をうずめる。
「メルー……襲っていい?」
リラックスしてだらんと脚をのばしている、無防備な背中。抱きつきたい衝動にかられるそれは、素面のノアにとっては毒だった。不機嫌そうなノアの声に振り向いたメルは、全く警戒心のないようなふにゃっとした笑顔。
「んー」
「無防備すぎ! 怒るよ!」
「なんでノアが怒るのー?」
「メルが好きだからだよ!」
「じゃあ襲えばー?」
「ん……?」
ふふー、と笑ってメルは脚をパタパタとさせる。
いつものメルなら絶対に言わないような言葉に、ノアは硬直した。メルに求愛して一ヶ月。体に触れればいやいやといいながらもメルは受け入れていたが、自らこのように誘ってきたことはない。酔っているから……にしても、そこまで好きではない相手にこんなことは言わないだろう――という希望的観測がノアのなかに生まれ出る。
「ねえ、メル……ちゅーしていい?」
「ちゅー?」
「キス」
「んー、いいよ」
素面に戻った時に怒られるだろうか、嫌われるだろうか……そんな不安がありながらも、一ヶ月も我慢してきたノアが無防備なメルを前にして我慢できるはずもなかった。据え膳食わぬは男の恥。ノアはベッドに乗ると、メルに覆いかぶさる。
唇を重ねようと顔を近づけたところで、ノアは胸元の違和感に顔をしかめた。軽く体を起こしてみれば、メルのロザリオがごつごつと胸に当たっていたらしい。ノアはむっとしてロザリオを掴む。
「……神様。メルを俺になかなかくれない意地悪な神様」
「ノアー?」
「そうだ、人間って結婚するときは神様に誓うんだっけ? 俺もそうすれば、神様は俺にメルをくれるかな」
顔にハテナを浮かべてメルはノアを見上げる。そんなメルの表情すらも可愛くてノアはくすくすと笑ったが、メルからロザリオを外し両手で祈るようにして掴むと、きゅっと顔を引き締める。
「神様、俺にメルをください!」
「なにやってんの?」
「俺は一生、メルを大切にします! 命をかけて、メルを守ります! メルを世界一幸せにしてみせます! メルを愛しています! だから、俺にメルをください!」
「……」
メルはぽかんとノアの誓いをきいていたが、やがて目が覚めたようにかあっと顔を赤らめる。あんまりにもストレートなノアの愛の誓いに驚いて、酔いが醒めてしまったのだ。ノアの言った言葉を反芻して、さらに顔を紅潮させてゆく。あくまで真面目に言っているノアのことを、見つめることができなくなってしまった。
「あっ、ちょっと、メル!」
メルは体をひいて逃げようとしたが、ノアはそれを許さなかった。メルの上に乗ったまま、ぐ、と手をつかんで逃がさない。
「ばっ、ばっ、馬鹿じゃねーの! 魔族の誓いなんて神様は聞いてねーよ!」
「そんなことない! さあ、誓いのキスをしようか、メル!」
「っざけんな! やだ!」
「さっきはいいって言ったじゃん! 男に二言はなし!」
「酔ってる時の言葉なんてノーカンにきまってるだろ~!」
ばたばたと暴れるメルが酔いが醒めてしまっているということにノアは気付いてしまった。ちょっと残念だと思いつつも、キスは諦めない。ぐいぐいと迫っていき、メルの後頭部をがしりと掴んでやる。
「まっ、まって、俺、初めては好きな人とがいい……」
「メル、俺のこと好きでしょ!」
「好きじゃないって言ってるだろ!」
「うそ!」
頭を掴まれてしまってはもう逃げられない。メルはふるふると頭を振りながらキスを拒む。しかし、ノアが唇を近づけてきても不思議と不快感はなかった。
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