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「キスして、って言ってみてよ、メル」
「……いや、……だ……」
「……じゃーキスしてあげない」
「え……」
「その代わりさ、舌だして」
「……?」
に、とノアが笑う。残念そうに微か目を見開いたメルの表情が愛おしくて仕方ない、そんな風に。ノアの命令の意味もわからないままにメルは、恐る恐る舌をちろりと唇をから出している。何かを与えてくれる、そんな期待に満ちた顔をして。
「もっと、いっぱいいっぱいに突き出して」
「ん……」
「そう、いい子」
「ふ、……っ!?」
メルが半泣きで舌を突き出すと、ノアはそれを軽く吸った。そして、じっとりとねぶってやる。唇にはギリギリ触れないように、舌だけを愛撫してその感触を堪能した。
「ふ……ふぁ、……ん、んん……」
手首を掴みヘッドボードに押し付ける。ぽろぽろと涙をこぼしながら、メルは抵抗しようとはしなかった。はあはあと次第に息を荒らげていって、ぶるぶると体を震わせる。こわばっていた体からは力が抜けていて、ふにゃりとヘッドボードに背を預けている。手首を掴む手を離せば、ずるずると倒れこんでしまいそうだ。ぽたぽたと唾液が落ちているのに全く抵抗しないでノアの愛撫を受け入れているその様子は――もう限界、といったところ。
「キス……して欲しいって、いってごらんよ」
「……う、」
「ほら……」
「……き、……す……」
「ん?」
「……ッ、……キス、……」
メルが嗚咽をあげはじめる。「して欲しい」、その言葉を言いたいのに言えなくて、ぼろぼろと泣きだしてしまった。ヘッドボードに追い詰められて逃げ場もなくて、でもこれ以上請うこともできなくて。どうしようもなくてメルは泣くことしかできない。――ああ、いじめすぎたかな、ノアはそう思ってメルの頭を優しく撫でる。
「……ごめんね、メル……キスしてあげる」
「……っ」
「ほら……目を閉じて」
促せば、メルは素直に目を閉じた。ノアはにっこりと微笑んで、――そして、唇を重ねる。
「んん……」
はじめのキスよりも濃厚に。がっつくようにキスをしてやれば、メルが甘い声を漏らす。ノアはメルの手首を掴んでいた手を解き、その頭を引き寄せる。そうすれば、メルもしがみつくようにしてノアの背に腕をまわしてきた。
「あっ、……んんっ……」
呼吸に泣き声が混じっている。舌を交わらせれば、メルはたどたどしくも必死にノアについていこうとした。吐息が溶けいって、境界線も曖昧になってゆくような熱い口付けに、メルは翻弄されてゆく。
「んっ、……! ん、ん……」
かく、とメルの体が小さく震えた。構わずキスを続けてやれば、びく、びく、と震えが大きくなっていって、最後に大きく、腰が跳ねる。
ノアはメルの身体に何が起こったのかを察して、唇を離してやった。そうすればメルの身体はずるずるとずり下がっていって、力なく、熱を逃がすように荒く息を吐き出した。とろんとした目元を覗きこむようにして、ノアは囁く。
「キスだけでイケたんだ?」
「……っ」
「キスでこんなに感じるとか、どんだけ可愛いの」
何も言い返すことができずに悔しそうに震えるメルを、ノアはにやにやとしながらみつめていた。ぐ、と身体をひいてベッドに横にしてやっても、メルは抵抗しない。キスだけでイかされて、もうどんな言い訳もできなくなってしまったから。ノアに食べられてしまいたいと想うその心を隠すことには、限界を感じた。服を脱がされてゆく。あっという間に身体を纏うもの全てを剥がれて、メルは恥ずかしさで手の甲で顔を覆い隠した。ツンと勃ってしまった乳首も、先走りでぐちゃぐちゃに濡れてしまったペニスも、欲しがりにぴくぴくと震える身体全部を、舐めるように見つめられて体温は上昇してゆく。
「下手したら血を吸った時よりも感じやすくなってるかもね。何回イケるか、やってみる?」
そこからのメルの乱れようはすごいものだった。ほんの少し肌を撫ぜられるだけでびくびくと全身を震わせて甲高い声で鳴き、乳首を吸われれば仰け反ってペニスからぴゅくぴゅくと白濁を散らせる。シーツを掻いて、もがいてももがいても逃げられない快楽の渦のなか、ただ乱れ続けた。
「あぁっ……! はぁッ、あぁあ……! だめっ、……そこ、あっ……いくっ、あぁっ……」
「乳首だけで何回イッたの、メル」
「んっ……んんっ……」
いつもよりも敏感なメルが愛おしくて仕方ないというふうにノアは笑った。もう一度唇を重ねてやれば、メルはぐったりとしてそれを受け入れる。舌で咥内を掻き回せば、メルは蕩けた表情をさせながらまた、達してしまった。かくかくと腰を震わせて、ペニスからだらだらと蜜をこぼす。
「俺のこと、欲しくて欲しくて仕方ないって顔。もう意地張ってないでさ、俺のこと好きって認めてよ」
「う……」
「……強情だなーキスで気持よくなっちゃう時点で答えでてるようなもんなのに」
「んっ……んんー……!」
は、とノアが笑ってメルの唇を覆うようにしてくちづける。そして、脚の間の窄みに濡らした指を突っ込んで、なかをぐちゅぐちゅと掻き回した。身体を強ばらせるメルを押さえつけるように、キスを深めていく。ごりごりと中のイイところを強く刺激してやれば、メルは一際大きく身体を跳ねさせた。
「んんーッ、んー……!」
ぎゅっとノアに抱きついて、ぼろぼろと泣きながらメルはまた、達してしまう。感じすぎておかしくなってしまいそうで、怖かった。
次第に荒がる息遣いと大きくなってゆく嗚咽に、ノアはためいきをつきながら起き上がる。ここまでしても自分を好きと言ってくれないメルに、悔しさを覚えた。
「のあ……の、あ……」
しかし、意識を朦朧とさせながら、自分にすがるように名前を呼んできたメルが、やっぱり愛おしい。
「ごめん、メル。いじめてごめんね」
「ん……」
ノアは苦笑いをして、メルの額にキスを落とすと、頭を撫でてやった。
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