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夜になると、ノアの怪我もだいぶ治ってきた。ここに泊まるわけにもいかないからと、城に戻るとノアが言う。
「もう歩けるのか?」
「元々たいした怪我じゃないし、平気」
ノアはとくに辛そうな顔をすることもなく、ベッドから起き上がる。メルの心配は杞憂だったようで、ノアはもう普通に一人で歩けるようだ。ベリアルに連れられてノアはメルと共にマスターに挨拶をすると、酒場をでてゆく。
酒場の前で、お別れをすることになった。もうすっかり星がみえる時間、夜のはじまり。月明かりに照らされて、ノアとベリアルはメルに背を向ける。
「メル、ありがとね! こんな時間までお世話してくれて」
「いや……元々はノアが俺を庇ってくれたからだし」
ふふ、と笑うノアに、メルの胸がきゅんと鳴る。
「明日からまたデートしよ、メル!」
「……」
じゃあね、と手を振るノアに、メルは返事をしなかった。……意地っ張りをしたわけじゃない。違うことで頭がいっぱいだったのだ。
「……ノア」
「?」
ぐるぐると考えて、考えて。メルは絞り出すような声でノアを呼び止める。不思議そうな顔をして振り向いたノアに、メルは駆け寄った。
「あ、明日は……デートじゃなくてノアの城にいきたい」
「ん? いいよ、どうしたの?」
「……あの……その……」
「メル?」
もじもじとしてなかなか言い出さないメルの顔をノアが覗き込む。かあっとゆでだこのように顔を赤らめるメルは、もごもごと唇だけを動かしてなかなか言葉を発しようとしない。しかし、もう一度ノアが名前を呼べば、観念したように震える声でメルは言う。
「ふたり、きりで……えっと、その……い、ちゃいちゃしたいというか、」
「えっ!?」
「ノア!」
が、とメルがノアの胸ぐらを掴む。ノアはぎょっとしてびくりと肩を震わせたが、メルの顔をみて「あ、」と声をあげた。恥ずかしさで涙の溜まった、真っ赤な顔。思わず見惚れていれば……一瞬目の前が真っ暗になって、唇になにかがあたる。
「……?」
何が起こったのか……わからなかった。しかし、メルの恥ずかしそうな、目をぎゅっとつむったその顔が見えた瞬間ーーノアは理解する。メルに、キスをされたということに。
「め、め、メル……」
「おっ……おやすみ!」
ノアがかっと顔を赤らめた瞬間、メルはノアを突き飛ばして逃げて行ってしまった。メルが酒場の中に入ってしまうまでその背中を呆然とみていたノアは、ほうけたようにつぶやく。
「あ、明日……めっちゃメルとエッチしよ」
「結局それですか」
「メルのこと思いっきり愛してあげたいの!」
「なるほど」
やる気満々のノアをみて、ベリアルが苦笑する。こりゃあメル様は明日大変なことになるぞ、とベリアルの心は踊るのだった。
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