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*** 「I hear Thy welcome voice……♪」    柔らかい肉の匂いがキッチンに広がる。オーブンの前に立つメルは唄を口ずさみながら、中の様子を伺っていた。  日が沈み始めたころに、ノアとは別れた。一日中ベッドの上で愛し合って、身体も心も幸せいっぱいのメルは顔をほころばせながら夕食を作っていた。 「……メル、ご飯をつくっていてくれたのかい」 「あ、義父さん。うん、今日はやることないし、俺がつくろうと思って」 「……ごめんね、メル。閉じ込めるようなことをして」 「ううん。義父さんが俺のこと心配してくれているってわかっているし」  礼拝堂から戻ってきたトレーシーが、メルを見つけるなり声をかけてくる。メルはにこにことしながらトレーシーを会話を交わし、オーブンをあけた。ちゃんと焼きあがっていることを確認して、料理を取り出す。 「今日はコテージパイにしようかと思って……義父さん、好きだよね」  コテージパイは、マッシュポテトと牛肉をつかったミートパイだ。テーブルの上におけば、ほくほくとした蒸気がたちあがる。サラダと飲み物も併せてテーブルに並べ、メルとトレーシーは席についた。 「あれ」  コテージパイを口にいれたメルは、ぱちぱちとまばたきをして声をあげる。しばらく咀嚼してパイを呑み込み――首をかしげた。 「……義父さん、ごめん、なんか味付け間違えたかも」 「味付け? そうかい?」 「なんか変な味がするっていうか……薄い? あれ?」 「私は美味しいと思うけどね」 「……そっかー……俺のところ焼きが甘かったのかな」  今回はポテトが多めだったため、薄味にならないように牛肉に濃い味付けをしたはずだった。加減を間違えたかな、と思ってメルは首をかしげながらも食べ続ける。トレーシーは歳のこともあり味覚が鈍くなっている可能性が高い。自分がおかしい、と思ってもトレーシーにとってはそうではないのかもしれない、とメルはそれ以上料理に口を出すこと無く、完食した。  ただどうしても疑問を覚えたのは、サラダも妙な味がしたということ。いつもと同じドレッシングを使っているのに、風味がいつもと異なるような気がしたのだ。 (俺、風邪でもひいたかな)  口にいれるもの全ての味が、変に感じる。気づいていないだけで、実は高熱があるのかもしれない。熱があがれば味覚が変になることもあるし……と、メルは食事を終えるとさっと食器を片付けて、すぐに部屋に戻ってしまった。

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