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「んー、義父さん……なにー?」
昼が過ぎた頃。ぽかぽかと暖かいなか、相変わらずやることのなかったメルは惰眠を貪っていた。ベッドの上でごろごろとしていたときにトレーシーに呼び出されてしまっため、しっかり覚醒しないままにあくびをしながら玄関にでていけば――
「あ……メル、おはよう」
「……んあ……椛?」
そこにいたのは、椛だった。普段はきっちりと服を着こなしてツンツンとしているメルの、とんでもないだらしない姿をみた椛は、驚いたように苦笑いを浮かべている。メルは口元をひきつらせながら、よれた襟だけを正して椛に向き直った。
「お、おはよう椛。どうしたんだよ、うちにくるなんてめずらしい」
「いや……しばらく教会からでれないってきいて、退屈かなーって思って来てみたんだけど……迷惑?」
「べ、べつにぃ? あがれよ」
「よかった、町の人から美味しいものも預かってきたから」
椛とは普段喧嘩ばかりのため、こうして時折優しくされるとどういう顔をしたらいいのかわからない。しかし、気持ちは嬉しい。メルはツンとした態度をしながらも、久しぶりにトレーシーやノア以外の人と話せることが楽しみでならなかった。
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