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***  教会について、先ほど起こったことを全てトレーシーに話すと、彼は絶望したように顔を伏せてしばらく動かなくなってしまった。驚きはしなかったため、こうなることは予想ついていたのだろう。椛がしばらくトレーシーが落ち着くまで待ってやれば、やがてゆっくりとその疲弊しきった面貌をあげる。 「……全部、私の身勝手な行動が招いたことだ……私はなんてことを……」 「……トレーシー神父?」 「辛かった過去の自分に勝手にみなし子だったメルを重ねて……彼を幸せにしてあげたいと思った。ただ……「幸せ」の基準を自分の中でしか測れなかった。メルにとっての幸せを、人間として暖かい環境で暮らすことだと、決めつけてしまった。だから、あんな術をメルに使って……」  トレーシーはメルに対して「人間に変化させる術」を使ったことを椛に話した。生きている間はもつはずのその術が、メルが自分の知らないところで魔族と触れ合ってしまったことで術が解けてしまうということを予測できなかったとも。魔族であれば自然と身につくはずの理性を人間として暮らしてきたことで身につけることができず、無差別に人間を襲うようになってしまうことになるとは思ってもいなかった、とも。  そして――その術は、生涯で一度しか使うことができない、とも。  あまりにも強力な術なため、二度以上つかってしまうとメルの身体に大きな負担がかかってしまうらしい。 「私の……愛と称したエゴが招いたことだ……主よ……どうか、私に罰を――」 「……」  トレーシーは臥せってしまい、話にならない状態だった。ほぼ自分のせいでこのような恐ろしい事態を招くこととなってしまったのだから仕方のないことだ。メルの身に何が起こったのかをしったところでどうするべきか――椛も答えがみつからず、呆然とすることしかできなかった。

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