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「……あ、」
いつのまにか気絶していたノアは、傷の痛みで目を覚ます。人間よりは自然治癒が早いといっても今回の傷は深いものだ。少し寝たくらいでは回復しない。しかし、メルのことが気がかりだ。ノアは痛む身体を引きずって、ベッドから這い出る。壁伝いになんとか部屋の出口を目指して歩いたところで――扉が開く。
「……伯爵。だめですよ、まだ寝ていないと」
「……ベリアル」
現れたのは、やはりベリアルだ。水のはったたらいを持っている。
「……伯爵、貴方2日も目を覚まさなかったんですから……身体が大分限界がきているのでは? 無理に動くと身体に障りますよ」
「……メルのところにいかないと」
「メル様、」
ノアがベリアルを押しのけて部屋を出ようとすると、ベリアルがくすくすと笑った。なんだ、と思ってノアが振り向けば、ベリアルがノアに憐れむような視線を送る。
「メル様、人間の町にいってしまいましたよ」
「……え」
「腹をすかせたんでしょうねえ」
「……!」
――なんで止めなかった。そうベリアルに掴みかかろうとしたが、よくよく考えれば彼が止めるわけがない。人間の悲劇を愉悦とする彼だ。
ノアは傷が痛むのを無視して、走りだす。
そんな後ろ姿を、ベリアルは楽しげにみつめていた。
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