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――ジ 「……!」 突然、ズキンと頭が割れるように痛み、椛は頭を抱える。 何事かと思ってふと周囲を見渡せば……景色が変わっていた。 狭い部屋で、老婆と少年が二人で本を読んでいる。 老婆はやせ細っていて手元がぶるぶると震えて体が悪いのだと見て取れる容態であった。 しかし、老婆は少年をみつめ嬉しそうに微笑んでいる。 読んでいる本のタイトルは、『不思議の国のアリス』。 ほかにも、二人のそばには『シンデレラ』や『人魚姫』といった、おとぎ話の本が散らばっていた。 「……ッ」 突然、少年がぱっと顔をあげて椛をみつめる。 少年は、自分と同じ顔をしていた。 驚きに固まる椛に、少年はにっと笑って言う。 「――ソノ答エデ、キミハ正シイト思ッテイルノ?」 ――ジジジ 「……!」  景色が戻る。ハッとして椛がノアとメルを見やれば――なんと、メルが生きていた。二人が立って、抱き合っていた。……その光景に、既視感を覚える。ほんの少し前の光景だ、と。このあとメルがノアを喰らい、そしてノアがメルを殺す。……時間が、戻ったのだ。 「……なんで」  椛が呆然として二人を眺めていれば、メルの歯がノアの首に食い込んでゆく。さっきは……そう、このタイミングでノアに「メルを殺して」と叫んだんだ。メルに、ノアを殺させないために。メルの望みを叶えるために。つまり、なんだろう。ノアにメルを殺させたのが間違いだというのか。だって、ここでノアにメルを殺させなければ、メルはノアを殺してしまう。自分たちにはメルを止める術もないのだから。 「あっ……!」  椛が迷っているあいだに、メルはノアの首の肉を食いちぎってしまった。椛が唖然としていれば、メルはそのままノアの肉を食い進めていってしまう。 「まっ、待って……!」  このままだと、ノアが食われてしまう。メルがノアを殺してしまう……! そう思った椛が駆け出したときだ。 「……!」  ノアの腕が、す、とあげられる。そして椛にむけて「待て」と合図をしたのだ。  何を考えているのだろう。このままだとメルが……。ただ見守ることのしかできない椛は、ノアの肉が徐々にえぐれていく様子に心を痛ませた。

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