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*** 「――椛、今日もマードック神父のところに行ってたのか?」 「マードック神父のところにも行っていたし……教会の薔薇のお世話をしにも行っていた」 「ああ……そういえば前にもそんなことを言っていたなあ……薔薇の世話、難しくないか?」 「難しいけど……楽しいですよ」  あの日――始めて教会の庭にはいって薔薇をみた日。椛が薔薇の世話をさせて欲しいと頼んでみると、マードックは快く承諾してくれた。それから数週間。椛は毎日教会に通って薔薇の世話をしている。 「……あの薔薇、メルが可愛がっていたよなあ」 ――町の人々は、あの事件のあと、椛によって真実を知らされた。メルがトレーシーによって人間に変えられていたこと、そしてそれによって狂ってしまったこと。町の人々は、理性を持たない人狼となってしまったメルは生きていても辛いだろうと、あの最期が最も良かったのではないか、と言う。恋人と添い遂げられて、あの状況のなかでは幸せな最期だったのではないかと。  理屈は、椛にも理解できた。メルはあそこで死ぬのが最も幸せだった。でも…… 「メルが死んじゃったから、あの薔薇も元気がなくなっちゃったみたい」  メルのことを想っている人たちは、たくさんいる。彼が亡くなって涙を流した人がどれだけいたことか。彼の死は、彼にとっては幸せだったかもしれないけれど……周囲の人たちにとってはそうではない。たとえ自分たちの命を脅かす人狼だとしても、彼の死は辛く哀しいものだ。 「椛がもう一回、ちゃんと咲かせてやるんだろ?」  彼の運命は――生まれたときから、決まっていた。人狼として生まれた時点で、本当は人間のなかに入るべきではなかった。自分たち人間とメルは、決して交わることの許されない種族同士。この別れは必然だった。はじめから出逢わなければ、誰も悲しまなかった。でも、誰もそんなことを思う者はいない。メルと過ごした日々を、大切に想っているからだ。  メルの人間として生きた人生を、トレーシーの親としての愛を……誰も、否定しなかった。 ――椛以外は。  椛は、未だにメルの運命を受け入れられていない。メルとノアが出逢わなければ……なんて、ずっと考えている。むしろ自分とメルが出会っていなければ、こんなふうに哀しい想いはしなかったんじゃないか、とも思っている。 「……はい、きっと」

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