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第33話 Ex: ガムシロボーイ -1-

※補足説明※ この話は『オメガの巣』は出てきませんが、『Made in Hotel SSS』に関係があるので、あえて加えました。 これは、世良の両親の話です。 今後、この様なオメガバース作品を加えるかもしれませんので、ご了承下さると助かります。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 「―……ありがとう……」 可愛い。 普段、気の強い猫が見せた安心しきって潤む瞳に、素直にそう思った。 無理矢理相手に気を強く見せて、実は人一倍臆病な彼をいつもどこでも包んで上げたくなった。 だから、『俺が居れば大丈夫』と年月を掛けて滲み込ませる様に、甘く甘くじっくりと教え込んでシロップ浸けの身体に仕立てた。 ほのかにバニラの香りのするガムシロップの大瓶から、それを原液でチビチビと舐めるのが大好きな彼。 子供の頃からの癖はなかなか抜けなく、彼は現在はそれを通販している。 ―蜂宮 蓮 『ハチミツ、レンゲ』 こう変換すれば、名前がどことなく甘そうな液体を連想させる。 ちなみにミヤの両親は俺の一族が経営するホテルの一つのバーで働く、バーテンダーなのだ。ちなみに男性同士である。 まぁ、ちなみにミヤの好むガムシロップはカクテル用のだ。多分、両親から与えられたのが最初だろうな。 そのガムシロップは何もカクテルに使うだけでなく、ジュースにも変化出来るから、俺とミヤはそれで自分好みのオリジナルジュースを作り合った。 すると見える傾向があり、ミヤはハッキリと甘いの。俺はほのかな甘さが好みだと見えてきた。 そんなハッキリ甘党なオメガのミヤが好きな……アルファの俺、布施 洋司。 今日も俺はオメガのミヤの前に立ち、ミヤがそっと世界を俺の後ろから伺い覗き、行動を共にしてくるのに悦びを得ている。 少しからかい突くと強がって前に出て、直ぐに"ぴゃ!"と俺の後ろに戻ってくるミヤ。 俺の姿を見つけると直ぐに寄ってくるし、強がるくせに俺と一緒に居ると安心すると言う。 安心なら、俺もミヤでしている。 しかし……俺達は"運命の番同士"では無い。 アルファに惹かれるオメガ、オメガに惹かれるアルファ。 番でなくとも現れる本能の感情。 そろそろミヤに……オメガ特有の"発情"に入る時期だ。 そんな時、俺はミヤにこんな質問を受けた。 「ヨウは……好きな、子、居る?」 「―……居る……」 ミヤの質問に思わず呟く様にだが、答えてしまった。 そして俺の言葉を聞いたミヤは大きな瞳を更に広げて、"パチリ"と一回瞬きをすると、何となく震える声で「そっか」と言葉を零した。 急に色素が抜けた顔で俺に微笑むと、ミヤは「じゃ、俺と同じフリーだ」と少し高い声で言ってきた。緊張してる? 俺はその言葉に「ミヤの御守が生きがいだから、俺はフリーで良いんだ」と答えたら、少し色を戻した顔で「もー!」とポカポカ殴られた。 何だ、この猫パンチ。痛くない。身体の叩かれた所の表面的な痛さより、その可愛さに俺の心臓の方が痛い。 しかし、ミヤがこんな……恋愛の事を聞くなんて……。 もしかして、ミヤは好きな奴が出来て、俺がうっとおしくなってきたから、遠まわしに俺に恋人を作れと言っているのか? ミヤの可愛さに甘く痛んだ心臓が、急に変貌して、重く抉る痛みになった。

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