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***  日も落ちて、すっかり人の気配がなくなった住宅街。住宅街とはいってもラズワードの住まうそこは、普通の暮らしなどできないような金のない者たちが集まる粗末な住宅街であった。ボロボロの貸家は壁が薄く、隣人の生活感溢れる音が筒抜けとなって聞こえてくる。  部屋に入るなりラズワードは電気もつけずにベッドに倒れ込んだ。安っぽいベッドはそれだけで大きな軋り音をたてる。  今の疲れた体には十分柔らかいベッドに身を沈めれば、睡魔が襲ってくる。大きく溜息をついて、静かに目を閉じた。 「……おい、ラズ……もう帰っているか?」 「……?」  ドンドンと荒々しくドアをノックされて、あっさりと睡眠は邪魔される。今すぐにでも寝たかったラズワードはわずか苛立ちを覚えたが、その声の主がわかると仕方なく立ち上がった。 「……おかえりなさい、兄さ……」  ドアをあけてやれば飛び込んできた光景に、ラズワードは絶句した。  そこに立っていたのは、兄・レイ。同じ部屋に住んでいる彼は遅くまで仕事をしていて夜遅くに帰ってくることは珍しいことではない。 「……その怪我……どうして治してきてもらわなかったんですか!?」  レイは、上半身に大きな傷を負っていた。止血だけはしたと思われるが、治癒魔術の類は一切使っていないようで今も包帯に血が滲んでいる。 「……あぁ……金払ってたいしたことない治癒魔術やってもらうより、オマエにやってもらったほうがイイと思ったんだよ」 「だからって……ここまで来るのに倒れたりしたらどうするんですか……!」 「うっせぇなぁ。金がもったいねぇって言ってんだよ」 「……!」  レイはハンターという職業についている。悪魔を狩る職業で、天使のなかで最も危険で、そして高収入な仕事であった。レイは金を稼ぐためにその仕事をやっているのだが、無茶をすることが多く、こうして怪我をして帰ってくることは少なくない。 「……とにかく、はやく治さないと……」  ラズワードはレイに治癒魔術をかけようと彼に近寄った。しかしその傷に触れようとしたその時、その手を掴まれてしまった。 「……?」 「おい、まてよ、ラズ。どうやって治すつもりでいんの?」 「え……?」 「そーんなつまんねぇ治し方やめてくれよ。俺さ、いますっごいキてるわけ。ちょっと癒してくれてもいいじゃん」  手で傷に触れればすぐに治せるものを、それを阻まれてラズワードは戸惑った。そうしているあいだにもどんどん血は溢れてくる。 「に、兄さん……はやく治さないと……」 「だから、治してよ。ほら」  レイはラズワードを押しのけて部屋に入ると、ベッドに座った。そして乱暴に包帯をほどいていき、その傷をラズワードに見せつける。   「ラズ、治せ。舐めて治せ」 「……っ」  レイはジロリとラズワードを睨んでいる。ラズワードはレイに背を向けたまま、唇を噛んだ。そして、静かに扉を閉め、鍵をかける。  ベッドに座るレイに近寄り、跪く。胸を抉るように付けられた傷は、深く大きかった。ラズワードはゆっくりその傷に唇を寄せた。  部屋を照らすのは、月明かり。青白い月の光は、ラズワードの細い背中に(おぼろ)に陰影を生み出す。レイが背筋をすっとなぞってやれば、ぴくりとその体が揺れる。 「……やっぱオマエの魔術が一番だよ。ほかのやつらの治癒なんて時間だけかかって下手くそだもんな」  レイの分厚い胸板に、手を添える。流れる血を、花に魅せられた蝶のように、舐めた。  唇に触れたところはすぐに傷が塞がっていく。その小さな唇から舌をだして、遠慮がちに、少しずつ、少しずつ。長い伏し目がちの睫毛が瞳に影をつくっている。  傷を完璧に治すのに、大して時間はかからなかった。言われた通りに傷を治し、レイから離れようとラズワードは立ち上がる。しかしそれはすぐに阻まれてしまった。 「おい、まてよ」 「……はい」 「まだ俺の言ったこと終わってないだろ。俺は癒して、っていったんだけど」   「……癒す、」 「……おいおい、嘘だろ? 言わなくてもわかるよなぁ? いつものだよ、いつもの」  その言葉に、ラズワードは黙り込んだ。その様子を見て、レイがラズワードの頭を鷲掴みし、自分の方へ引き寄せる。 「……」    ラズワードはそっとレイのズボンのファスナーを下げる。そしてペニスをとりだし、それを口に含んだ。 「はは、わかっているじゃん。どうだ、美味いか?」  笑い混じりにそう言われて、ラズワードはチラリとレイを見上げた。そうすれば、レイは盛大に吹き出す。 「ふっ、あはははは! まっさかなぁ、誰も思わないよなぁ! おまえがこんなことしてるなんてさぁ!」 「……」 「オマエさぁ、かなりモテるらしいじゃん? そのツラだしな。っつってもこの貧民街だけでの話か! 表にでたらオマエはただの奴隷まがいなわけだし!」 「……んっ!?」  ラズワードの評判は、兄のレイにもチラリと流れ込んで来ていた。美しく、気高く。貧民街におちたとしても、その気品は変わることはなく、太陽の光にきらきらと光るさらさらとした茶色い髪も、太古の空のような深い青の瞳も、ひどく美しいと。静かな佇まいは、まるで清らかな水のようだと。  そんな、誰もが憧れる美しき青年を。好き勝手に欲望で穢してやることは、なんて背徳的で嗜虐的で愉しいのだろう。レイは笑いながら、乱暴にラズワードの頭を掴んだ。  ぐい、と無理やり奥に押し込まれて、ラズワードは思わず呻き声をあげてしまった。奥を突かれたと思えばすぐにそれは引き抜かれてまた突かれる。頭を押さえつけられているため、抵抗もできない。あまりの苦しさに目を閉じるラズワードを見下ろしながらレイは罵声を浴びせ続けた。 「でもよ、やっぱ気分いいわ。こんなインランなおまえ見れんの俺くらいじゃん? つーかさ、おまえバガボンドよりも男娼のほうが向いてんじゃね? そっちの方が稼げるっしょ? ……なぁ!?」 「ん、ぅ……っ!」  奥を突かれるたびに勝手に声が漏れていく。まともに呼吸もできず、瞳に涙が滲んでくる。  

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