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「……っは、ぁ……」    ぐ、と顔を持ち上げられて無理やり目を合わされる。責め苦から解放され苦しげに息を吐くラズワードを、レイは鼻で笑った。 「なあ、なんで体売んなかったわけ? そうしてくれたほうが俺としてもずいぶん楽なんだけど」   「……俺には……向いていないから……」 「ふーん? まあそうだよな。おまえ無駄に気位高いしなぁ? ヤってる最中思いっきりイヤって気持ちが顔にでるのが目に見えているわ」  レイはラズワードの腕を掴み、そのままベッドの上に放り投げる。そしてそのままラズワードの脇に手をついて、彼を見下ろした。 「……まあ、俺には逆らえないけどな、オマエ」    にやりと笑い、レイはラズワードのシャツのボタンを外していく。ラズワードはそれを抵抗もせずにただ黙って見ていた。これからされることを考えて、ぎゅ、と目を閉じる。  ラズワードが抵抗しないのには理由があった。魔術の腕なら圧倒的にラズワードの方が上で、抵抗しようと思えばいくらでもできるのにそれをしないのは、レイに負い目を感じていたからである。負い目と言っても、そんな軽いものではない。ラズワードの存在が彼の人生を狂わせたと言っても過言ではなかった。  魔力というのは、天使や悪魔なら誰でも持つものである。火、水、風、土の四種類の魔力があり、そのどれかをもって生まれ出るのだ。それは血筋は関係なく、家族でも違う種類の魔力をもって生まれるということが多々ある。  その中で、子供を産む親が願うことが一つ。「水の魔力だけは持って生まれないでほしい」ということ。  水の魔力をもつ者は美しい容姿を持つとされ、また非常に扱いの難しいその魔力を持って生まれたものはほとんどが弱者となる。様々な理由があるが、水の魔力を持って生まれた者は、いつからか差別されるようになっていた。  そして、あるときできた奴隷制度。  美しくそして酷い扱いも許される、水の種族。彼らを奴隷として扱うという、とんでもない制度であった。  水の魔力をもって生まれでたならば、その子は強制的に施設に連れて行かれ、奴隷としての教育を受ける。そして完成したらオークションやら市場やらで高値で売るのだ。  それでも愛しい我が子を奴隷なんてものにしたくないというのが、通常の親の心理である。そんなときは施設に奴隷免除金として、金を払うことになる。しかしその免除金は非常に高額で、大抵は途中で払えなくなって結局施設に売り渡すことになるのだった。  ラズワードとレイはワイルディングという貴族の子であった。しかしレイは火の魔力を持って生まれたものの、ラズワードが水の魔力を持ってきてしまったため、その免除金を支払うのにワイルディング家は苦しむことになる。二人の親は、ラズワードを手放すつもりはなかった。どんなにギリギリであろうと絶対にラズワードを施設に売り渡そうとはしなかった。  その高額の免除金は、想像以上に負担が大きかった。貧しい暮らしを余儀なくされた親は、満足のいく生活ができず、慣れない貧困に病気にかかり、不幸にも亡くなってしまった。  そうしてワイルディング家はあっという間に没落してしまったのである。ただひとり、水の魔力を持って生まれた子のために。  それから貧民街での暮らしを要求された二人は、免除金を払い続けるために自ら働くことになった。ラズワードは差別を受けている水の種族ということもあって、最高権威のハンターという職につくことは許されず、職のないものが最終的にいきつくバガボンドという組織にはいることになった。一方レイは、元貴族で力も強い火の種族ということで、ハンターになることができた。  そしてレイは多額の報酬を得るために、より危険度の高い悪魔を狩ることに没頭し始めたのである。    レイがラズワードを恨むのは当然のことであった。彼さえ生まれてこなければ、貴族としての暮らしを謳歌できたはずなのだから。親を失うことはなかったはずなのだから。憎いラズワードのための免除金を稼いでいるのは、親がそうまでして守った彼を最後まで守り通さなければ親が報われないと思ったからであろう。   「なぁ、ラズ。なーんでそんなにイヤそうな顔してるの?」  ハンターとして我武者羅に戦い続けて、そのストレスの矛先はいつしかラズワードに向けられるようになっていた。親の死、戦い続けなければいけない苦痛、ラズワードへの憎悪はレイを狂わせるのに時間はかからなかった。家族であること、同性であること。そんなことはどうでもいい、ただ、生物として勝手に湧いてくる性欲と爆発寸前のストレス、弟への憎しみを同時に解消する方法としてレイはラズワードを陵辱するようになっていた。 「はは、そうやってさ、オマエはこういうこと嫌いなフリをしてるけど、ホントは好きでたまんねぇんだろ?」 「……そんなわけ……」 「別に否定することないだろ。俺がこうしてオマエをインランな体にしてあげたんだからさ……オマエの体はどうしようもなくヤルのが好きになっている。ほら、言えよ……お兄様から享受したそのインランな体ありがたく思え! キモチイイって言えよ、もっとしてくださいお願いしますって言え!」 「……あっ」  ぎゅ、と乳首を摘まれて、思わず体がはねた。もともとはそんなところ感じるなんてことはなかったのに、もう何度も何度も弄ばれたそこは、完全に性感帯となっていた。ぐりぐりとそこを刺激されて、堪らず声をあげてしまう。  ラズワードはとにかく性的な行いは嫌いで仕方がなかった。生々しい欲望をぶつけ合うその行為は気持ち悪いとしか思えなかった。それでも無理やり開発された体は、純情に反応してしまう。キモチイイと確かに感じている。  それは、屈辱でしかなかった。 「……キモチイイ、です……もっと……して、ください……んっ」 「っふは! とんでもねぇインランが! お望み通りめちゃくちゃにしてやるよ!」  どんなに言いたくないような言葉も、レイが言えというのなら言った。やれというのならやった。彼には逆らえなかった。  罪滅ぼしというわけでも、彼への謝罪というわけでもない。もうわからなかった。自分というものがわからなかった。ただ彼に逆らってはいけないと。彼が望むことはすべてやらないと。いつしかその考えが頭にこびりついていた。 「ほら、脚開けよ! ぶちこんで欲しいんだろ?」  血まみれで帰ってくるレイを見ていつも思うのだった。これが自分だったらいいのに、と。辛い思いをするのは自分だけでいいのに、と。 「なに声抑えてるわけ? 出せよ、オマエ俺とヤってキモチヨクないのかよ! 何様だテメェ、俺がオマエみたいな奴隷まがいに突っ込んでやってんだぞ、ありがたく思わねぇのか!」 「は、い……兄さん、ごめんなさい、……ごめんなさい……」  どんなに酷いことをされても、決して彼を嫌いにはなれなかった。むしろ、好きになれない自分が嫌だった。自分を見捨てないでいてくれる兄を、心のどこかで疎ましく思っている自分が嫌いだった。ベッドが激しく軋む。きっと隣の部屋にも丸聞こえだろう。それでもレイが声を出せといったから、淫靡な声を出し続けた。 「あっ、ん、ッぁあ!」 「はっ……この変態が……こんなに乱暴に犯されて感じてんのかよ!」 「……ッ、ぅ、あ、ごめんなさ、……にい、さん……あ、あぁ……」    体を突かれ、揺さぶられ。自分の体はこんなことをするためにあるのではないと、まるで女のように扱われることに屈辱を感じたが。みっともなく喘いで、よがって、そうした醜態を彼が望むというのなら。  浅ましい嬌声をあげた。滑稽に腰を振った。 「たまんねぇな……ラズ、他のやつにそんな顔みせんじゃねぇぞ……俺の前だけだ、おまえが受け入れていいのは、俺だけだ……!」 「あっ、ぁああ……ッ!」  体の中に熱い液体がぶちまけられて、果てた。ビクビクと痙攣する体を抱きしめられて、キスをされて。 「兄さん……」  眩む視界、淡くぼやける世界。わけもわからず、理由もわからない。なぜか、涙がこぼれた。

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