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「なんか今日反応よくない?」
ノワールとの行為の余韻だけが、身体を満たしていた。なぜか胸がいっぱいになって、これからもずっとこんな時間が続くのだと、まるで夢見る乙女の妄想のようなことを考えていた。少しの間、ここが施設の中だということを忘れていた。
夜の調教の時間。調教師はいつもどおり、ノワール以外の人。昼の戦闘訓練(と称した情交の結び)が終わり牢に戻れば、いつもと変わらないこの時間がやってくる。
ただ、いつもと違うところがあった。
「あぁっ、あ、は、ぁッ……!!」
快楽が、いつもに増して身体を蝕んでゆく。そして、なぜかそれに対して嫌悪感を覚えない。
体を惨めな格好に縛り付けられ、卑猥な玩具を秘部に突っ込まれ、体のあちこちを弄られて。屈辱的で卑しいこの行為に、身体だけでなく心も、確かに感じていた。
「あ、んん……、も、っと……あぁ……」
「……どうしちゃったの? 随分と積極的じゃん」
どうしたの? それはこっちが聞きたい。どうしてこんなにも快楽を拒むことができなくなっているのだろう。
『――愛しているよ』
「あ! あ、あぁ……!!」
『ちゃんと目を開けて、俺を見て』
「あ、ダメ、いく……イク……」
ついさっきノワールに言われた言葉がフラッシュバックする。体を触られれば、その感触にノワールの愛撫を思い出す。狂いそうになるくらい気持ちよくて、心臓が壊れてしまうくらいに切ない、あの快楽がずっとずっと身体から離れていかない。
今自分を辱めているのはノワールではない、それをわかっていても、似たようなことをやられてどうしてもノワールのことを思い出す。今この体を触っている指が、あの綺麗な細い指なのだと、そう錯覚してしまう。
もっと、したい。あれ以上に強い快楽など、この世には存在しないだろう。あれのほかに心を満たしてくれるものはないだろう。
もっと色んなところを弄って。もっと激しくいたぶって。もっと俺の全てを支配して。
次々と溢れ出る欲望は、まるで自分のものではないように、淫らな色に染まりきっていた。
「あはっ、俺が来ない間に誰がおまえんとこ、ここまで淫乱に育て上げたの? すげー、見習いたいな」
「……、は、あ」
「……いいや。ほら、もっと欲しいだろ? もしかして、こんな偽物じゃなくて本物がいいかな?」
調教師はラズワードの後孔に刺さった太いバイブレータをずるりと引き抜く。
「あぁ……」
ナカを満たしていた物体を引き抜かれる虚しさに、ラズワードの口からため息のような艷声が漏れる。太いモノをくわえ込んでいたそこは、抜いたばかりではまだポッカリと穴があいていた。ヒクヒクと収縮するそこをぬるりと撫でられて、ラズワードはビクンと体を跳ねさせる。
「ねえ、自分から俺のモノ挿れてみてよ」
調教師はナイフで縄を切ってゆく。拘束から解放されてくたりと倒れこむラズワードを無理やり起こし、調教師は「早く。偽物よりもずっと気持ちいいよ」と囁いた。
『ラズワード、足、開いて』
「……ん、」
ラズワードは手を調教師の肩に乗せ、ゆっくりと体を起こす。あぐらをかく調教師の脚を跨いで、まだ熱い自分の秘部の入口を、彼のペニスにあてがった。
『……挿れるよ』
「あ、あ……」
先のほうだけ、ナカに入れる。ソレのもつ熱が、一気にナカ全体に広がっていくようで、もうイってしまいそうになった。それでも耐えて、ラズワードはゆっくりと腰を落としていく。
『力抜いて』
「あぁ、あ、あ……」
『……大丈夫? 痛くない?』
「はぁ……きも、ち……」
『全部、入ったよ』
調教師の脚に座り込めば、ソレはラズワードの奥まで入り込んだ。ズク、と鈍痛にも似た快楽が下から突き上げてきて、ラズワードは思わず仰け反った。
「自分で動けよ」
調教師が一度、腰を突き上げる。白い火花が目の前に散って、意識が飛んでしまいそうだった。
『動くよ』
「あ、あ……」
ラズワードは調教師の首元に顔を埋めるように抱きつき、ゆっくりと腰をあげる。ずるずると中で熱いモノがすれてゆく感覚。出て行ってしまうさみしさ。あの時感じた快楽が沸々と蘇ってくる。
「はぁ……、ん、ぁ」
体中が熱い。抜けてしまった場所が、再び突かれることを欲している。ひくひくと疼くソコを、もう一度埋めようとまた、腰を下ろしてゆく。
「んん……っ」
ずちゅ、と卑猥な音が響いた。ああ、もっと、もっと、激しく突いて欲しい。こんなんじゃあ体の熱が滾るばかりだ。ラズワードは快楽に震えながら、先ほどよりも速度を上げて、またそれを抜いていった。
『もっと早く動いていい?』
「あっ、あ、ん……!」
体を揺らし、自らソレを抜き差しした。ソレが奥を突くたびに快楽で頭がおかしくなって倒れてしまいそうになったが、それでも動くことをやめなかった。気持ちよくて、堪らなくて、動きを止められない。
『好きだよ』
「あッ、あッ、あッ、」
『好きだ』
「あッ、ん、あぁっ、!」
もはや自分が何をしているのかもよくわからない。勝手に体が動いて、その度に強烈な快楽に体を貫かれて、頭の中で木霊するあの人の囁きに、理性も羞恥心も壊れ、世界が狂ってゆく。ぼやけた視界のなか、ふと目に入ったいつものように牢の端に座っていたその人に、もう自分が崩れてゆく。
「おい、そろそろ出すからな」
「だ、して……いっぱい、なか、に……! あ、あぁっ……!」
「ホント、すげぇな、今日のお前。ほら、受け止めろよ……!」
ああ、顔をみたい。仮面をとって。今、俺を見ている貴方の顔はどんな表情を浮かべているの。
『ラズワード、愛してるよ』
「あ、あぁ……―――」
吐き出された精が、中を満たしてゆく。ラズワードは同時にイキ果てて、くたりと調教師に体を預けた。しばらくの間びくびくと中で動く熱いモノ。ラズワードのソコはもっと欲しいと言わんばかりに収縮を繰り返す。
「やっべえ、今日良かったわ」
「……は、ぁ……あ、ぁ」
調教師はぐったりとしているラズワードを床に放り投げ、立ち上がる。「あー」と気だるげに声を上げながら、頭をガシガシと掻いている。
「よーし、終わりかあ……シャワー室、だりぃなあ……」
「……ランド」
ぐ、と伸びをする調教師に、ノワールが声をかけた。この調教が始まってから初めて聞いたノワールの声に、ラズワードはぴくりと反応する。
「あ、はい! すみません、なんでもないです! すぐシャワー室いってコイツんとこ洗ってくるんで!」
「……いや」
うっかりこぼした言葉がノワールの癪に障ったのだと思ったランドというらしい調教師は、びしっと背筋を伸ばして叫んだ。しかし、ノワールは声色を変えることなく言う。
「……君、たしか明日早番だったよね?」
「そ、そうです!」
「……じゃあいいよ。今日はあがりで。彼の洗浄は俺がやっておくから、君はもう休むといい」
「えっ」
優しげな声で言ったノワールに、ランドはびっくりして声をひっくり返らせた。
「で、でも! ノワール様の手を煩わせるなんて……! いいです、俺やります!」
「いや、疲れているんだろう? 無理させて明日の仕事に支障でもだされたら困るのは俺なんだ。いいから、ランドはもう終わっていいよ」
「の、ノワール様……!」
ランドは嬉しさを噛み締めるように俯いたと思うと、すぐに顔をあげる。
「で、では! お言葉に甘えて今日は失礼させていただきます!」
「うん、お疲れ様」
「お疲れ様です!」
ランドは今にもスキップしそうな足取りで牢をでていった。調教のあとの奴隷のシャワー洗浄というのは調教師にとって面倒な作業なのである。ただ体を洗ってやれば良いのだが、調教の最中にした様々な行為で気だるい体を動かすのはどことなく面倒なのだ。ランドが妙に喜んでいるのもこのためである。
ただ、ノワールがランドの代わりにラズワードのシャワー洗浄をやると申し出たのは、ランドの体調を想ってのことではなかった。
ノワールは仮面を外し、ローブを脱いで、ラズワードに笑いかける。
「……とうとう職権乱用までしちゃったよ。俺もどうかしてるよね」
すぐそばまで近づいて、頭を撫でてきたノワールに、ラズワードは微笑んだ。
「……いいじゃないですか。……貴方は俺を愛した時点で……既に普通から外れているんですよ」
「ふ、……それもそうだ」
自嘲するようにノワールは笑う。
「じゃ、いこうか。ラズワード」
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