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「最後の夜に気付いたんだ。暗い牢の中ではよくわからなかったけど、ラズワードの瞳の色が夜明けの空の色に似ているなあって」
「ああ」
「太陽ってすごいんだね。暗い暗い夜の闇だって、一瞬で壊して世界に光を灯す。そうか、ラズワードが俺の光になってくれるのかな、ってそのとき思ったんだ。俺のことも、壊してくれるのかなって」
「ああ」
自分の背にのってぶつぶつと一人言を言っている主にグリフォンは適当に相槌をうっておく。心が全部読めるため、ノワールがこのようなことを思っていたなんてことは知っていたというのもあるが、大切な人がそんなことを言っているために不愉快になったのもある。自分を殺す相手のことを光に例えるとはこりゃまあなんと殊勝なことで。
「まあ、ラズワードにとって俺は闇でしかないんだろうけど。……ハルのこと見ていただろ? すごく普通にラズワードのこと愛していた。嫉妬なんかもして、ラズワードのこと幸せにしたいって、ねえ、なんて普通の恋の仕方なんだろうね。ラズワードにはああいう人がいいと思うんだ。もっと普通の人の幸せを知って、そしてその幸せを抱いて老いて死んでいって欲しい」
「私もアレにはハルとかいう男と結ばれて欲しい」
「グリフォンは俺にラズワードを近づけたくないだけでしょ。……なんかさ、今日久しぶりにラズワードに会って思ったんだけど……やっぱり俺、自分のこと嫌いだな」
「そうか」
ノワールはグリフォンの背に寝そべるようにその白い毛に顔を埋める。グリフォンは慣れているため何も思わないが、恐らく他の人がこんな彼の甘えるような仕草をみたら驚愕するだろう。
「ハルのことみて……ああ、俺なんかよりずっとラズワードに相応しいって思ったのに……実際にラズワードを見たら、また欲しくなった」
ただ、これはノワールにとってグリフォンが唯一弱音を吐ける相手なのだから仕方のないことだった。周りから敬われ、恐れられ、ずっと世界の頂点に立ってきたこの男は、そう強い人ではない。
「……それはどういう意味だ」
「……いや……次に会ったら、俺、我慢できないかも」
「……何を」
繋がった感情がグリフォンに流れ込んでくる。熱く全てを燃やし尽くすような冷たい闇に侵食されそうになって、思わずグリフォンは振り向いてその持ち主の表情を確認してしまった。
ノワールは、蟲を蔑むような目で自分自身を見つめていた。
「――ラズワードの全部を、奪うかもしれない」
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