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ラズワードにメイドのことを尋ねることもできず、悶々とした日々がすぎる。
意識してみれば屋敷にいる者がラズワードを見る目はどこかおかしかった。ドロリとした気味の悪い欲望を溶かしたような瞳で、ラズワードのことを見つめる彼ら。そう、男もだった。メイドとの痴話喧嘩をみたその何日か後、執事に犯されているラズワードを見てしまった。しかしラズワードは抵抗する様子もなく、殴りつけようと思えばできるだろうにそれをせず、黙って男に身体を預けていた。
同じ屋敷内でこれだけ関係を引っ掻き回しているのにあまり問題になっていないのはたぶんラズワードの身分の容姿のためだろう。ラズワードがこの屋敷の持ち主の息子だということと、容姿が良すぎるために彼を自分だけのものにできると自信を持てるものがほとんどいないのだろう。遊ばれていると感じようが、少しでも関わりを持てるだけでもありがたいと考える者が多いのだ(だから、あのメイドは例外だ。ラズワードがめんどくさそうにしていたのはそのためだろう)。
――だったらなぜラズワードはそんなことをやっているのか。性欲を満たしたいだけならわざわざ何人もと関係をもたずとも出来るはず……
「――姉さん。おかえり。帰っていたんだ」
「……! ラズワード……」
最近はなぜか勝手に気まずくてラズワードの部屋にいくこともできず、アザレアはあまり彼と話していない。突然話しかけられ、アザレアはわっと体中から汗が吹き出るのを感じた。
「最近あんまり姉さん俺の部屋こないからさ、忙しいの? 顔も疲れているし」
「……あ、う、うん……」
「……そう」
ラズワードの声が一瞬低くなる。ぞく、と何かを感じたときには……抱きしめられていた。
「――……!?」
頭が真っ白になる。今自分がどういう状況に置かれているのか、わからない。ふ、とラズワードの首筋から女物の香水の匂いが香ってきたとき、アザレアは我に返る。顔が熱くなると同時に寒気がして、でもラズワードの雰囲気が底なし沼のように怖くて、動けない。突き飛ばしたいのにそれができない。
「ら、ラズ……」
「――はい。疲れをとるのも治癒魔術でできるっていうからやってみたんだけど、どう? 体軽くなった?」
「え……?」
開放され、アザレアはポカンと口を開ける。さっきのほの暗いぬるりとした雰囲気は嘘のように、ラズワードはからっと笑っていた。はっとして体に意識を集中させてみれば、確かに軽い。
「そろそろさ、プロフェットも扱えるようになりたいんだ。導入だけでもいいから教えてほしいんだけど、いい? もしこれから用事あるなら今度でいいから」
「う、ううん……大丈夫。今、いいよ」
本当はラズワードの部屋にいくのが怖かったが、なぜか断われなかった。こうして気まずさを感じていることを悟られたくなかったのかもしれない。
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