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ラズワードはハルの胸板に顔を埋めた。唇から勝手に溢れる声はくぐ曇って、いやに自分の耳に入ってくる。吐き出す吐息のせいで顔が熱くなっていって、もう全身が熱くて熱くてしょうがない。ハルの背に腕を回し、シャツの背中の部分をシワになるほど握りしめて……それなのに、ハルの手はとまってくれない。耐えても耐えても新たな刺激が次々に体を貫いてゆく。指で小さなふくらみを摘ままれ、指と指をこすりあわせるようにぐにぐにと弄ばれ、こねくりまわされ、たくさん可愛がられてぷっくりと固くなったそこはさらに感度を増していく。
「やぁあ……、ふっ、うぅ……や、ハル、さま……だめ、お願い……ハルさま……」
懇願するように、ラズワードは声を絞り出した。なんでこんなにも感じるところを的確にやってくるんだ、そんんなことを思ってラズワードは睨むように顔を上げる。しかし、その瞬間ラズワードははっと息を飲んだ。
「……ハル様……起きて……」
「……ごめん」
「――え、あ、あぁッ!?」
見上げた先のハルは――しっかりと目を開けていた。初めからなのかはわからないが、今目覚めたばかりというわけではないだろう。つまり、ラズワードが敏感な部分をわざと刺激していたことになる。
「……ごめん、……あんなこと言われたら……俺、」
「ひゃ、ぁあッ、ん! そこ、だめ……ハル、さま……」
しかし、ラズワードは悪い気がしなかった。
ラズワードはハルと目を合わせたまま、刺激に耐えた。自分のことを見つめるハルの瞳は、じっとりと熱を帯びている。時折漏れる自分のいやらしい声が、ハルに聞こえていると考えると、妙な気分になった。自分の、体の熱を逃がすような吐息と、ハルの少し間隔の短い吐息が混じり合っているのを感じる。ぎりぎりまで近づいてそうやって空気を奪い合っているのだから、わずかに呼吸が苦しいが、それが胸を締め付けるようで気持ちいい。
――自分の痴態を彼に見られているという状況に、興奮していた。
「はぁッ、は、ぁあ……!」
「……可愛い……ラズワード、可愛い」
ラズワードを見つめるハルの瞳は、理性の崩壊を無理やり押し付けているような切羽詰まった歪みの色が浮かんでいて、その今にも自分を食い殺してしまいそうな瞳に見つめられただけでラズワードはイってしまいそうだった。その瞳のすぐ前で無防備に快楽に屈服して喘いている自分が無様で、そんな自分の姿を想像してくらくらしてきた。
冷静を保つためか無表情でいるハルの目の前で、自分だけがくたくたに快楽に支配されている。ハルの目つきは険しくなっていき、その瞳にラズワードが悶える姿を映し、今か今かと獲物を狙う獣のように欲望にまみれていた。ハルもこんな表情をするのかと思って、ゾクゾクしてしまう。
食べられてしまいたい。淫らに、ぐちゃぐちゃに。彼の与える快楽に狂ってしまいたい。
「ラズワード……早く、聞きたい……おまえの、「好き」って……」
「だめ、まだ……だめ……! ハルさ、ま、……さっき、は寝てるって、思ったから……」
「ずるいよ、ラズワード……あんなこと言われたら……俺、ずっと、ずっと我慢してたのに……壊れそうだ……ラズワード……」
「あ、ああっ……!」
ぐ、っとハルの膝がラズワードの脚を割る。膝で僅か乱暴にぐりぐりと秘部を刺激され、全身が揺すられる。シーツの擦れる音がひどく耳障りで、しかしその音がどれだけ自分が激しく揺すられているのかを表しているようで、ラズワードはその音に酔ってしまいそうだった。その間にも胸の刺激は収まることはない。
ゆさゆさと揺すられ、それでもラズワードはハルを見つめ続ける。激しくなってゆく呼吸音が、鮮明に自分の耳へ届く。暑さで視界にモヤがかかったようで、頭の中はいよいよおかしくなってしまいそうだった。
ずく、と快楽が下の方から這い上がるように迫って来て、ラズワードはぶるぶると首を横に振る。「だめ、だめ」とうわ言のように言っては身体を反らせて、身体を支配し始めた絶頂から逃げようとする。しかし、それでも身体は揺さぶられる。逃げることなど、できない。
「ハルさま……い、っちゃうっ……! いく、だめ……もう、ハルさま……だめっ……」
「ごめん……可愛すぎて、やめられない」
「あっ、あっ、あっッ」
びくん、と跳ねたラズワードの身体を、ハルは抱き寄せる。自分の腕の中でびくびくと痙攣するラズワードの頭に、ハルはキスを落としていく。ラズワードはそんな軽いキスさえも感じてしまって、されるたびに小さく「あ……」と吐息まじりの声を漏らす。
「……ごめんね……ごめん、可愛かった」
「……ハル、さま……」
「俺の目の前で感じているラズワードの顔……すごくやばかった」
「……ハル様……!」
「……嫌だった……?」
「……」
ラズワードはそっとハルを見上げる。顔を真っ赤にして、目を潤ませて。そんなラズワードの顔がハルにとってはひどく愛しくて、今度は唇にキスをしようとすればラズワードはふい、と顔をそらした。
「……嫌に決まっているでしょう……」
「えっ」
「……嫌ですよ」
ラズワードはきゅっと唇を噛む。
「……こんなに……全身でハル様のこと、感じているのに……「好き」って言えないの……苦しいです」
「……っ」
「――んっ」
唇を重ねられると、また体が熱くなっていく。初めてかもしれないがっつくようなキスに、ラズワードはまた感じそうになってハルを押し戻す。
「……ハル様……まって……こういうの……ちゃんと、俺の気持ち伝えてから……いっぱいしましょう。……待っていてください……ハル様……俺も、本当は……俺の全部、もっと隅々まで、ハル様に触れて欲しいです……」
「……ラズワード……、ごめん、ごめんな、俺……ラズワードの気持ちは知っているんだ……でも、ラズワードがあんまり可愛いこと言うから……我慢できなったっていうか……その……ごめん」
「……でも……その、……きもち、よかったです」
「……。……キスはありにしよ」
ハルはじっとラズワードを見つめる。待てをされた犬のような表情にラズワードは笑いがこみ上げてくるよりもさきに、胸がきゅんと甘く傷んだ。でも、やっぱり笑ってしまって、ラズワードは誤魔化すようにハルに口付ける。そうすればハルはぱっと顔に花が咲いたようにきらきらと嬉しそうに笑った。そんな彼の顔をみて、自分はどんな顔をしているんだろう、とラズワードは一瞬思う。
ハルの瞳を覗き込んでみると、そこに映った自分は、どろどろに蕩けたような、実に間抜けな、幸せそうな顔をしていた。
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