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「――で、ウィルフレッド・レイヴァースと決闘をすることになったわけね……うん、ラズワード。もーちょっと冷静に行動できるようになろうな」
「……う。……すみません」
アザレアを別室で休ませて、ラズワードは再びハルの私室でウィルフレッドと決闘をすることになった経緯を話していた。ただわかっていたことではあるが、レッドフォードの者はあまり決闘をよく思っていないようである。もしもウィルフレッドが負ければまた新たに護衛を探さなければいけないが、それは大した問題でもなかった。レッドフォード家の従者達が騎士に引けを取らないくらいに強いのもあるし、従者のいないハルに至っては護衛など必要ないくらいに強いからである。それならなぜ決闘を嫌がるのかといえば――単純に面倒だからであった。
理由が理由なだけにそこまで大事にはなっておらず、ハルも苦笑いする程度であったが、実際にハルの口から注意されたためかラズワードはしゅん、と落ち込んだ。たしかに決闘を仕掛けてきたのはウィルフレッドのほうではあるが、彼がそうしてくるまでにラズワードが煽ったことも事実である。あの時の自分は冷静ではなかったな、とラズワードは素直に反省した。
「うーん、でもまあいいんじゃないか。ラズワードってなんか意外と荒っぽいところあるよなー」
「……そ、それは否定できないですけど」
「なんかさっきアザレアさんからラズワードが女の子たらしこんだって聞いたけど……いやホント意外」
「なッ……姉さん……どれのことを言ってたんですか……! デイジーのことなら不可抗力ですからね……!」
「『どれ』って……なに、そんなにおまえ……! 俺という存在がありながら……」
「む、昔の話です! いや、あの……昔はちょっと俺、荒れてたので……」
慌てて弁解するラズワードにハルは笑ってやる。「ごめん、からかっただけだよ」と頭を撫でてやればラズワードはしどろもどろになって恥ずかしそうに俯いた。
「……俺……昔はちょっとアレですけど……その、いまは……」
「ん?」
「……今は……」
ラズワードが口を閉ざす。あ、と思ってハルがラズワードを見つめると、ラズワードは震える瞳でハルを見上げていた。
「ハル、様……」
ラズワードはぐっと唇を噛んだ。揺れた青い瞳に、ハルは息を呑む。「ごめん、本当に冗談だから――」その言葉はハルの口からでてこなかった。――ラズワードの唇に、塞がれてしまったから。
「……っ、」
「……貴方だけです」
「……ラズ、」
「……ハル様だけですよ……!」
ギシ、とソファが軋んだ。
ハルは思わずラズワードをソファの上に押し倒す。は、と熱っぽい吐息を吐いたラズワードの唇を、今度はハルから塞いだ。何度も角度を変えて、自分の存在を焼き付けるように深く深く口付けた。悩ましげに閉じられたラズワードのまぶたが、震える。その華奢な身体を抱くハルの手に力が篭る。お互い、無我夢中でキスを交わしていた。
「……ラズワード……ごめん、俺……もう、限界」
「……」
「……だめ?」
じっとりと、交わす視線に熱が篭る。荒い呼吸。紅潮した頬。もの欲しげな唇。
ラズワードは何も答えなかった。その代わり、ハルの手に自分の手のひらを重ねる。そして、それをゆっくりと自分のシャツの中へ差し入れた。
「……っ」
「ラズ、ワード……」
熱い。
触れたところから溶けてしまいそうだ。ハルの手のひらが、ラズワードの胸の上までたどり着く。大袈裟にドクドクと高鳴る心臓の感覚に、ハルまでおかしくなってしまいそうだった。そのまま食らってしまったら本当にラズワードのことを壊してしまいそうで、自分を落ち着けようと黙り込むハルを、ラズワードは濡れた瞳で見上げる。
「ハル様……」
「……まって、……ラズワード……ちょっと、まって……。……俺、このままだとおまえに何するかわからない」
「……ハル様……焦らさないでください……俺も、もう……」
「……だから……そう煽るのやめて……ラズワードのこと……めちゃくちゃにしちゃうかもしれないから……!」
「して……ハル様……めちゃくちゃに……ハル様で、俺のこと、めちゃくちゃにしてください……」
「……ああ、だから……! もう、無理だ……!」
ぐ、とラズワードのシャツを一気にたくしあげた。すうっと肌を急に撫でる冷たい空気に仰け反ったラズワードの胸元で、小さな突起が主張している。それをハルが口に含み、吸い上げ、ラズワードの唇から甘い声が漏れたとき――
とんとん。
「――っ!?」
慎ましげなノックが響く。ハルは慌ててラズワードの上から飛び起きて、扉の方へ小走りに向かっていった。
「あの……ハル様。ウィルフレッド・レイヴァース様とラズワードさんの決闘の日程決定したそうです。こちらなんですけど……」
「あ、ああ! ありがとう」
「……」
扉から顔をだしたのはミオソティスであった。ミオソティスは手に持っていた紙をハルに手渡すと、ちらりとラズワードのことを見る。ミオソティスと目があったラズワードは、そこでやっと乱れた自分の服装と、押し倒されたままの状態の自分の体制に気付いて、勢いよく飛び起きた。
「……あの。……ご、ごめんなさい」
「えっ、あっ! い、いいんだ! いや、むしろよかった! うん、あのままだったらちょっとやばかった!」
「……やばいんですか?」
「いや、ほら……俺がちょっと暴走しちゃったかも、なんてな……あ、あはは……」
「……やっぱり……ごめんなさい」
ぺこーっと頭をさげたミオソティスに、ハルはあわあわと色んな言葉を連ねてはごまかすように笑っていた。ラズワードは二人に背を向けながら服を直していたが、ちらっと後ろを見てみればまたもやミオソティスと目が合う。ミオソティスはじーっとラズワードを見つめ、その無表情の顔で黙っている。何を言われるのだとラズワードがハラハラしていれば、ミオソティスはそっと手で口元を抑えた。そして、
「……ふふっ」
「……!?」
決して面白がっているわけではなく、単純に嬉しそうに、ミオソティスは笑った。彼女の考えていることはよくわからなかったが、前に見た笑顔と同じ可愛らしいその表情にラズワードは脱力してしまう。
「……失礼いたします」
「あ、ああ……」
ミオソティスはそのまま部屋から出て行ってしまった。彼女が出ていった部屋で、ハルは乾いたように笑ってラズワードを顧みる。慌てて起き上がったためかラズワードの髪は少々乱れていて、なんだか可愛いなあなんてことを思いながらもハルは言う。
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