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「……決闘のあとも、俺はハル様の傍にいますから。いっぱいできますよ」 「ちょ、いっぱいとか……いや、したい、すごくしたい……っていうか、」 「……勝ちます。俺は、ハル様の隣にいる権利を、誰にもわたさない」  ラズワードはふっと笑うと、ハルにそっと口付けた。そして、膝立ちになってハルを抱きしめる。 「貴方をお守りするのは、俺だけです」 「――……」  ハルはぱちりと瞬きをする。ぽかんとしながら自分を抱くラズワードの背に、腕をまわした。 「あー、なんか今、ラズワードに抱かれてもいいって思ったかも」 「……なんですか、それ」  くす、とラズワードが笑う。そして、ハルの目線に合わせてす、と腰を落とした。 「……ハル様がどうしてもっていうなら……いいですけど……でも俺は、抱かれる側がいいかな、みたいな」 「っふ、そんなに? なんで? 一回そっちになるともうそれしかダメになるの?」 「……そんなことないですけど……だって……」  少し顔を赤らめながらそんなことを言うラズワードが面白くて少し笑ってはみるものの、ハルは内心ドキドキしっぱなしであった。本当にラズワードを抱いたときのことを妄想してしまって。実際に挿れたら、どんな顔をするのかな……なんてモヤモヤと考えていると、いつの間にかラズワードの顔がずっと下にある。えっ、と思ってハルが下を見てみれば、ラズワードは未だたちあがっているハルのものに布の上からそっと触れ、そこに口付けた。 「……これ。……挿れられたいなって……そう思って……」 「なっ……ラズワード……」 「……また、大きくなりましたね……ハル様。この部屋を出る前に、ちゃんと出さないと……」 「……あ、」  ジ、とファスナーを下げる音にハルはビクリと身じろいだ。ラズワードが少しそこを指で探れば、大きくなったソレが顕になる。ラズワードはそれを熱っぽい瞳で見つめ、目を閉じ、先の方に唇を寄せた。  ……ま、まじか。まじでやるのか。え、どれくらい耐えられるかな、俺……無理、無理……見たらたぶん一瞬で……  ハルはあまりにも目に悪いその光景に、ぐっと顔をそむけ、それを視界に入れないようにした。ラズワードが触れていると考えただけでもかなり危ないのに。見てしまったら耐えられる自信がない。  ……とハルが考えていたというのに。 「……ハル様……見ていてください……」 「う、えぇっ!?」 「……見られながら、したい……」 「……っ」  体の奥で、何かがゾクゾクと蠢いた。ハルは静かにラズワードを見下ろす。瞳をじっとりと欲で濡らし、頬を染め、睾丸を唇で軽く食むその姿は、明らかに彼自身も欲情している風であった。時折漏れるくぐくもった甘い声が、なんともいじらしく、いやらしい。 「……ラズワードってさぁ……」 「……ん、……っ」  ハルは軽くラズワードの顎を持ち上げると、その薄く開かれた唇に、とん、と硬くなったものの先を当ててやる。そうすればラズワードは瞳を揺らがせ、そして、それを静かに咥えた。頭を撫でるようにして優しく引き寄せれば、ラズワードはされるがままソレを飲み込んでいく。ソレを見つめるラズワードの目は……蕩けるような熱を孕んでいた。 「んっ……ぁ、ん……」 「……思ったより……エロいね、ラズワード。……俺のしゃぶるの、気持ちいい?」 「ん、」  こく、とラズワードが頷く。ズク、と熱が下から湧いてくるような気がした。ハルは堪らず腰を揺らしてしまう。 「う、げほっ……」 「あ、ごめん……大丈夫か?」 「――……」  ソレが喉の奥を突いてしまったためか、ラズワードは苦しそうに咽せてしまう。うっかりやってしまったというものの、ハルは申し訳ない気持ちでいっぱいになってラズワードの背をさすろうとしたが、ラズワードはぱっと顔を上げてそれを拒絶した。 「ハル様……いいです、もっと……もっとしてください」 「え……」 「もっと酷くしてください……」 「ら、ラズ……」  ラズワードは起き上がり、唇を拭い、そしてハルを見つめて言う。 「……ハル様の欲望で、満たされたいんです」 「――……」  おまえ、それもう……だめでしょ。  すっとハルは立ち上がる。そしてきょとんと見上げてくるラズワードの頭を掴み、ハルはラズワードの口にそそり立ったものを突っ込こんだ。 「んっ……」 「……は、可愛い……」  奥に当たらないように、腰を振る。ラズワードは頬を紅潮させ、目を閉じ、悩ましげに眉を寄せながら、じっと耐えていた。ハルの腰に手を回し、ぎゅうっとシャツを握り締める。苦しいのだろうか、その瞳からポロっと涙がこぼれ落ちた。まずい、そう思って腰を引こうとすれば、ラズワードがハルを見上げ、首を振る。  もっと、激しく。  そう、瞳で訴えられた。涙で濡れた瞳は、少し赤らんでいる。ゾク、とまたわけのわからない感覚が迫り来る。  もっと、もっとこの顔をみたい―― 「……ってできるかっ!」 「えっ、ちょっ……」  いきなりソレを引き抜かれ、ラズワードはびっくりしてパチクリとハルを見上げた。それと同時に、先から白濁液が飛ぶ。 「ん……」 「あ、悪い……!」  それはラズワードの頬にピッとかかってしまう。慌ててハルがしゃがみこんでそれをハンカチで拭いてやろうとすると、ラズワードは指でそれを拭って、唇までもっていく。そして、舐めた。 「ばっ……舐めるなっ」 「……顔もいいですけど……できれば中でだしてもらいたかったですかね」 「~~、だ、だから……」  ハルは顔を真っ赤にして頭を抱え込んだ。 「ら、ラズワード……おまえってかなり……その……えっちぃのね」 「……お嫌いですか? 淫らな俺は」 「う……そ、その……えーと……さ、最高です……」 「そうですか。よかった」  ふふ、とラズワードは笑うと、ハルに抱きついてきた。ハルはくたっと顔から火をふきながらも、ラズワードを抱きしめ返す。 「ハル様。でも、ハル様だって……」 「え?」 「……いえ。なんでもありません」  ラズワードは目を閉じて、ハルの首筋に顔を埋めた。自分よりもしっかりとした体つきの彼に抱きしめられていることに、たまらない満足感を覚えた。  ラズワードは、自分の口にペニスを突っ込んで腰を振っていたハルの表情を思い出す。獲物を前にした時の獣のような、静かに、しかし確かに欲の宿るあの瞳。あれに射抜かれたとき、それだけで達してしまいそうになった。ゾクゾクと全身が被虐心に支配された。  途中で我に返ってやめてしまったけれど――たしかにあの時、ハルは興奮していたのだ。  貴方だって人のことは言えないでしょう。でも――それは言ってあげない。気付いていない時のほうが……より激しいだろうから。 「ラズワード……ごめんな……なんか……ちょっと苦しかっただろ?」 「いいえ。……俺はすごく良かったですよ」 「……まったくおまえは……」  ハルは顔を赤くしながらも、呆れたように笑ってみせた。そして、ラズワードの頬に手を添えると、キスをしようとする。しかし、ラズワードはぐ、と顔を背けてそれを拒んだ。 「えっ、なんで拒否るの」 「……だって、さっきまでああいうことしていたじゃないですか」 「……俺はいいんだけどな。じゃあ、ちょっとだけ」  そういって、ハルは触れるだけのキスをする。ラズワードは困ったように眉を曲げながらも、静かに目を閉じた。 ――好きだ。  唇を滑らせるようにして角度を何度も変えて。そこがお互いの体温に染まって吐息が混じり合って。手を重ね、指を絡め、優しく触れ合ったところから「愛している」と囁いた。  くらりと目眩がする。心臓の鼓動が響いている。息が苦しくなってゆく。甘い痛みに支配されてゆく――…… 「ねえ……勝ったらまたキスしてよ」 「……キスだけで足りますか」 「じゃあ……おまえを頂戴。ラズワード」 「……」  ラズワードはふっと微笑む。目を閉じ、手を左胸に添えて、そして穏やかに言った。 「――はい。俺の全部、貴方に捧げます。……でも」 「でも?」 「……貴方の全部を、俺にもください」 「……うん」  もう一度、キスをする。触れるだけのキスを。そっと目をあけてラズワードの表情を伺おうとすれば、ラズワードも目を開く。青い瞳が細められ、微笑んだ。  ――ああ、綺麗だなぁ。  その青をこの腕で全て抱きしめたい。ハルは溺れるほどに美しいその青に、身を委ねていった。

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