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「今日の決闘の立ち合いは、俺とお父様とその従者、それからマリーがすることになったよ」
「……エセルバート様とマリー様って和解したんですか?」
「うーん……してないんじゃないかな。昨日もすごい言い争いしてたし……」
「はあ……そうですか。……あと、なんだかレッドフォード家の皆様に見られるのすごく緊張するんですけど……」
「あはは……お父様なんかはたぶんラズワードのことすっごい見てくると思うな。もしもラズワードが勝ったらラズワードのこと俺の従者にするように頼んであるから」
「……え、俺を? ハル様の従者!?」
「うん。レイヴァースが負けて新たに従者探すのめんどくさいだろ、って言ったらすごい渋い顔でお父様、考えておくって言ってたよ。まあ、レイヴァースに勝つってことはかなりの実力者ってことになるから、従者としての条件はみたせるんだよね。……やっぱりそう簡単には承諾してくれないと思うけどさ」
決闘当日。ラズワードは自分の私室で服を見立ててもらっていた。正式な決闘だから服もちゃんとしろ、とのことらしい。あまり話す時間もないためハルはそれに立ち会うという形でラズワードの部屋に来ていた。
「でも……ハル様。俺、奴隷身分ですよ? そんな俺を従者にするのはちょっと……」
「いいんだよ。俺そういうの気にしないし。それにラズワードくらい綺麗ならむしろ好意的に見られると思うけどなあ。ラズワードはそんななよってしているわけでもないし変な噂されることもないだろ」
「変な噂って……」
「ほらー……あるでしょ? 愛人とかそういうこと言われる奴」
「別に大きく間違ってはいないと思いますけどね。皆様の想像のとおりいかがわしいことしているわけですから」
「い、いかがわ……っ」
してやったりという顔で笑ってみせたラズワードにハルは顔を赤くして俯いた。
い、いかがわしいこと……エロいことはあの時以降していない……い、いや……寝る前に身体触ったりとかはしてたけど……ノーカンだ、ノーカン!
「ラズワードさん、できましたよ」
ラズワードのタイをきゅっと締めてそう言ったのはミオソティス。ラズワードの服の仕立てはミオソティスがやっているのだった。
み、ミオソティス――
ハルは彼女がこの部屋に来てからというものの、なかなか顔をあげられない。ラズワードのことを見たくとも、彼女がすぐ傍にいるためにそれも叶わない。
そうだ、だって彼女はあの時俺の……情けない! 女の子にあれみられるとか終わってる……
「ありがとう。ミオソティスはなんか服とかそういうのが好きなの? 今日もなんか手馴れているし、このミオソティスが来ている服も自分でやったんだろ?」
「服が好きというよりも、色鮮やかなものが好きなんです。ですから、こうして服にも興味があるし、それから染物とか絵を描くことも好きですよ」
「色……ああ、だからなんか俺の目をみて……」
「はい。ラズワードさんの目の色、とても綺麗で。ずっと見ていたいです。……だから、今日は負けないでくださいね」
「うん、ありがとう。俺、勝つよ」
しかもなんか仲いいし……!っていうか俺と話すときとラズワードの口調違う……これか、アザレアさんの言ってたタラシってやつ……
「ハル様」
「は、はい!?」
「あ、あの……私、おわったので……失礼します」
モヤモヤと二人のようすを見ていたハルは、急にミオソティスに話しかけられて大きな声をあげてしまった。ミオソティスはびっくりしたような顔をしているが、そのまま何もなかったように部屋を出ていこうとする。
「ちょ、ちょっとまって」
「はい……!」
ハルに呼び止められてミオソティスはぱっと振り返る。まさか自分にハルが意識を向けるとは思ってもいなかったのだろうか、ミオソティスはぽかんと口をあけていた。
「一生のお願いです。黙っていてください」
「え、……え? あの、何をでしょうか……」
「だ、だから……あのとき……ほら、その……君が俺に決闘の日程を知らせにきたとき……」
「……? ハル様がラズワードさんとセックスしようとしていたことですか?」
「そ、そっちじゃなくて……俺が、その……」
「あ! ハル様のペニスが勃……むぐっ」
言いかけたミオソティスの口を塞いだのはラズワードだった。ラズワードは「はぁー」とため息をつきながらミオソティスのおでこを叩く。
「女の子がなんてこと口走ってるんだ」
「ん? んん、んんん」
ミオソティスはもごもごとラズワードを見上げながら抗議しようとする。ラズワードが手を離してやれば、ぷは、と息を吸ってミオソティスは言う。
「私、大丈夫です、なんとも思っていませんよ! ハル様のあれは男性の本能ですから! 恋人とあんな状況になれば勃起するのは当たり前のことです!」
「も、もうやめて……俺の心えぐらないで……」
「えっ……も、申し訳ございません……! ハル様の気分を害するつもりはなかったのですが……」
顔を赤らめたり青ざめさせたりしながらうなだれるハルと、オロオロと戸惑うミオソティスをラズワードはどこか白い目で見つめる。
(く、くだらねー……)
今の立場を賭けた決闘の前にするような内容ではない会話に、ラズワードは呆れを隠せなかった。ハルにとっては死活問題のようだから黙ってはいたが。
「ミオソティス、大丈夫、ハル様のことは放っておいていいから。あとは俺にまかせて、いいよ、もういっても」
「で、でも……」
「いいからいいから」
ラズワードはぐい、とミオソティスの背を押して部屋の外に押し出した。これ以上この茶番を続けてられないとの意向である。
「あ、あのラズワードさん」
扉を閉めようとすると、ミオソティスがくるりと振り返った。その結われた黒髪がふわりと揺れる。着物の香りだろうか、不思議な甘い香りが鼻をかすめた。
「本当に、勝ちますよね?」
「……うん」
「絶対、絶対ですよ?」
「もちろん」
「これでお別れなんて嫌ですからね?」
「そんなことにはならないよ」
「……本当に?」
きゅっと唇を噛んで上目遣いにミオソティスはラズワードを見つめた。ラズワードはふっと微笑んでやると、ミオソティスの頭を撫でてやる。
「信じて」
「……ラズワードさん……」
パシッ。
「……?」
ミオソティスを撫でるラズワードの手を、後ろからハルが掴む。そろ、とラズワードの肩から顔を覗かせながら、ハルはラズワードをじとっと見つめた。
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