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「……俺をのけ者にしてあまーい会話するのはやめてもらえませんか」 「そんなのしてません」 「嘘つけ、俺がこうして止めなければキスとかしそうな勢いだったじゃないか」 「誰がしますか、そんなこと! セクハラする趣味はありません!」 「じゃあラズワードは彼女を可愛いと思いますか」 「思います! 俺だって男ですからね!」 「ほらー! やっぱり!」 「あ、あの……」  二人のしょうもない会話を聞いていたミオソティスがおずおずと声をだす。それに気付いたラズワードはハルを押しのけてミオソティスに作り笑いを向けた。 「大丈夫、心配しなくてもいいよ、絶対に勝ってくるから。ミオソティス、ありがとう」 「は、はい。あの……なんか……ごめんなさい……」 「ミオソティスは悪くないから! じゃあ、俺今日はもうミオソティスに会えないと思うから、またあしたな」 「……! は、はい……! またあした……です!」  明日もまた会える、とそんな笑顔をみせたミオソティス。ラズワードはそれを確認すると、もう一度笑って、そして扉を閉めた。 「……ハル様ー……大人気ないですよ!」 「だ、だって」 「……意外とハル様って嫉妬深いんですね。……まったく」  ラズワードは呆れた笑いをハルに向けた。う、と俯くハルを見て、ラズワードは吹き出す。そして、ハルを抱きしめてやった。 「心配しなくても……俺は貴方のものですから」 「……ごめん。わかってるんだ……でも、」 「ミオソティスなら……たぶん彼女は俺にそういう感情は抱いていないと思いますよ。彼女はちょっと変わってますから……俺に対して何か違うものを見ていて、そしてそれを好きなんだと思います」 「そ、それはなんとなくわかってる。彼女、俺とラズワードの仲を普通に受け入れていたし……さっきはちょっと……うん、大人気なかった。ごめん。……でも」  はいはい、とあやすようにラズワードはハルの背中を撫でてやる。前から思っていたが、この人はちょっと子供っぽい。大人らしい包容力もあるが、恋愛のこととなると(慣れていないのか)少しダメになる。 ……まあ、そんなところも可愛いなんてラズワードは思うのだが。 「俺……本当にラズワードのこと好きだから……ごめん、こういう行動とっちゃうときもあるかもしれない……」 「……別にいいですよ。相手に迷惑かけなければ。……俺は縛られるのは嫌いじゃありませんし」 「……束縛とかはしないから!」 「え? いいですよ。少しくらい縛ってくれても。……性的な意味でも」 「ちょ……やめてくれ! せっかく綺麗な服着たのに乱したいのか!」 「冗談です」  ふふ、とラズワードは笑う。とん、と壁に背をあずけて、天井を見上げてみる。  バカみたいだなあ。……こういうのは、初めてだ。 「そうだ……エリス様の出張って、今日で終わりでしたっけ」 「……ん、ああ……決闘に立ち会うことはできないけど、今夜には帰ってくるって」 「そうですか……じゃあ、今夜初めて姉さんと会うんですね」  ラズワードとアザレアがレッドフォード家の屋敷に戻ってきたのは約一週間前。エリスは丁度その前日から出張に行っていて、今日まで戻ってきていない。アザレアはエリスと会うのがどうやら怖いようで、このまま会えなくてもいいなんて言っているが、そういうわけにもいかないだろう。  ラズワードは今日の決闘よりも、どちらかといえばそちらのほうが心配だった。エリスがアザレアにどういった態度をとるのか。昔とは思い切り風貌の変わったアザレアを見て、エリスはどう思うのだろう。 「あ……そうだ、兄さんからラズワードに伝言」 「……俺に?」 「『勝たねーと殺す』だってさ。なんだかんだ兄さんもラズワードのこと認めてるよね。前は奴隷がどうのこうの言ってたくせに」 「……うわ、怖……それは勝たないとですね。……でも、俺知っていますよ。エリス様、本当は優しい方ってこと」 「兄さんは……うん、そう。口悪いけど中身そんなに悪いやつじゃないんだ」  ラズワードはふうっと息を吐く。そして、自分に縋り付くように抱きついているハルの首元に、顔を埋めた。 「俺……ずっと、ここにいたいです」 「……『いたい』っていうか……いるんだろ。……ほら、ミオソティスにも約束したしね」 「……はい」  ハルのこめかみにそっと口付ける。そうすれば、ハルは顔を上げてラズワードを見つめた。  ラズワードはなんとなく、目を閉じる。たぶん、それは間違っていなかった。ハルはラズワードの唇に、自分のものを重ねてきた。 (気持ちいい……)  静かに、まるで儀式のように、深いキスをする。息を荒げることもなく、声を乱すこともなく。ゆっくりと舌を絡めて、ただ、ただ。  心の中で、幸せだと、そう呟いた。

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