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「――ッ!」
先に剣を抜いたのはラズワードだった。目にも止まらぬ速さで鞘から刀身を抜き、それと同時に魔術を展開させる。氷の柱が地面を走り、ウィルフレッドにぶつかっていく。
「えっ、何あの魔術……! 見たことない」
「あれも水魔術なんだってさ」
「……へえー」
人の数倍もあるような巨大な氷。ここでもう勝負は決まってしまったのではないかと皆思っていた。しかしラズワードはじっと先を見つめ続ける。体の力を抜きつつ、その神経は絶やさない。ウィルフレッドに今日会ったときからの違和感を、どうしても拭えなかったのだ。
「……っ!?」
突然、氷が一気に割れる。そして、その割れ目からウィルフレッドが勢いよく向かってきた。魔力の種類はおそらく風。風魔術を使った高速移動だろう。
ラズワードは咄嗟に剣を持ち上げ、防御の姿勢をとった。思い切り斬りかかってきたウィルフレッドの一撃を、なんとか受け止める。
「……うっ」
強烈な痺れが腕にはしった。剣に一気に魔力を流し込んでなんとかウィルフレッドを弾き飛ばすも、受け止めた時のダメージは酷いものだった。腕は痺れるどころか痛み出す。骨にひびが入った、それを確信したラズワードは即座に回復を行うも、頭をよぎる違和感をぬぐうことができない。
(前に合ったときとは明らかに違う……? それに、あいつの中になにか変なモノがいる……)
ウィルフレッドと距離をとり、腕の治癒をしながらラズワードは以前とはあまりにも違うウィルフレッドを睨みつける。前は一度刃を合わせただけで勝負が付いたというのに、ほんの数日でここまで筋力をあげることなどできるだろうか。それに彼から感じる空気もどこか変わっている。
「おいおいおまえそんなに弱かったっけか!? そんなんじゃレッドフォード家の護衛なんて務まらねぇんじゃないの?」
「……」
ウィルフレッドが剣を振るう。そうすれば刃からかまいたちが発生してラズワードに向かってきた。とりあえずもう一度防御をしようと剣を構え、ラズワードはそれを受け止める。
「――えっ」
どうにかそれを受け止めることはできた。しかし、予想をはるかに超えて重いその斬撃にラズワードはうろたえた。いくら魔力のこもったものであろうと、所詮はかまいたち。質量を持たないはずの風の刃は、信じられないほどの重さをもってラズワードの剣にぶつかってきたのだった。
なぜ、そうラズワードが思ったとき。あるものが目に入る。宙を舞うきらきらとしたもの。
「……氷の粒……?」
そう、今のかまいたちには氷の粒子が含まれていたのだ。だから、質量をもったように重みがあった。ラズワードはそれに対してはすぐに納得したものの、ある一つの疑惑が頭に浮かぶ。
――天使がなぜ、風と水の二つの魔力を持っているのか。
通常、天使と悪魔はその体内には一つの種類の魔力しか宿すことはない。ラズワードならば水の魔力だけ、ハルならば炎の魔力だけというように(神族の場合は特別で、その魔力には属性というものが存在しないため、どんな種類の魔術でも使うことができる)。そのため、今のウィルフレッドのような氷と風の融合魔術を使うことなどありえないのだ。
それをもし可能とするならば、例えば水の魔力を持つものから魔力をもらうか、それとも水の魔力をもつ魔物を体内に宿すか。――いや、おそらく。ウィルフレッドは何者かに魔物を身体に植えつけられた。
「……ウィルフレッド」
「ああ?」
「……答えろ。誰にそれを仕込まれた?」
「……!?」
なぜか。もし自分の意思でいずれかの方法を取るならば、わざわざ扱いの難しい水の魔力など選ばないと、ラズワードはそう考えたのだ。もっと扱いやすく、さらにウィルフレッド自身の魔力、風の魔力と相性のいい炎の魔力あたりが適当なはず。それなのに、ウィルフレッドはわざわざ自らの意思で水の魔力を選択したとでもいうのだろうか。
そして、以前とは様変わりしたウィルフレッドと容貌、そして異常に上がった筋力と魔力。ウィルフレッドが制御できるレベルを超えた魔獣を身体に宿していると考えるのが、一番自然だったのだ。
「……なに言ってんだかわかんねーな。自分の負けの言い訳かぁ?」
「……あんまり強すぎる魔獣を無理やり身体に押し込めてると、そのうちその身体壊れるぞ」
「……え」
「レベル5あたりの魔獣と契約でもしてるんだろ。それはおまえのもともと持っている魔力量をはるかに超えた魔力をもっている。その契約している魔獣に魔力を侵食されて、自分以外の魔力という異物に耐えられなくなった肉体は壊れるって言ってるんだ」
ラズワードの話を聞いたウィルフレッドは、顔をさっと青ざめさせた。当たりか、ラズワードはそう思ったが卑怯な手段を使って決闘に挑んだウィルフレッドを咎めるよりも先に聞き出さなければいけないことがある。
「誰だ。誰がおまえを魔獣と契約させた」
「……あ、ま、まてよ……アイツそんなこと言ってなかったぞ……なんだ、俺死ぬのかよ……アイツはこうすればおまえに勝てるって……強くなれるって……そういっていただけで……」
「……おまえとそいつの関係は?」
ちゃんと質問に答えろ、と言いたいところであったが、ラズワードはそれをグッとこらえて質問を変える。気が動転しているだけだ、変に強く迫ったりしたら余計にまともな返答ができなくなってしまう。
「……し、知らねぇ……突然現れたんだ、お前を殺すための手伝いをしてやろうって……なんなんだよ、おまえこそアイツとどんな関係なんだよ……なんでお前はナイトメアなんて奴に狙われている!」
「――ナイトメア……!?」
ウィルフレッドの口からでた名前に、ラズワードは目を見開いた。そして同時に二人を見守っていたハルも反応する。
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