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「はい、った……」
「ハルさま……」
ハルは惚けたような顔をしながらも、こみ上げる喜びに笑顔をみせた。いっぱいいっぱいなその表情をみていたら、ラズワードはなんだかおかしくなってしまって、噴き出す。
「わらうなって、」
「だって、ハルさま、そのかお……」
「うるさい、しょうがないだろ、ラズワードと一つになれて嬉しかったんだよ」
「ん、あっ……、ふふ、それは、俺も一緒で……ぁ、」
ぐい、と腰を押し上げるように動かしながら、ハルはラズワードに覆いかぶさった。そして、ラズワードの背とシーツの間に腕を滑り込ませてその身体を抱きしめる。壊れてしまいそうな、そんな微笑みを浮かべるラズワードに、ハルは軽く口付けた。ちょっとハルが動くたびに中で刺激してしまうためかラズワードは甘い吐息を零したが、それもすべて飲み込んでしまいたかった。食らいつくように口付けて、舌を絡ませて、全部ぜんぶ、ラズワードの全部が欲しかった。
触れ合った肌が、熱かった。気持ちいい。全身でお互いの熱を感じ取る。
「ん、んん……」
一つに、なっている。触れたくて、感じたくて、大好きで、愛しくてしょうがなかった人と。ラズワードは掻くようにハルの背を抱いて、そのこみ上げる情動を露わにする。眩暈がした。ハルはこんなにも体で熱を感じながら、今、自分が夢の中にいるんじゃないかと、そんな幻想を抱きそうになっていた。だって、ずっとずっと欲しかった彼が、こんなにも自分を求めている。息を乱し、身体を火照らせ、今自分だけのものになっているラズワード。夢。ううん、夢じゃない。たしかに今、自分はこの腕にラズワードを抱いている。
「ハルさま……」
ふと、目をあけてラズワードはハルの瞳を覗き込む。
ぽろぽろと再び泣き出したハルを見て、ラズワードは切なげに微笑んだ。
「なんでそんなに泣くんですか、だめですよ、そんなに泣いちゃ……」
「だって、俺、ラズワードのこと好きすぎて……ごめん、情けない……」
「……ううん。でも、俺も……」
ラズワードが目を細める。そうすれば、その拍子に綺麗な雫が目尻からこぼれ落ちた。
「幸せで、泣いてしまいそう」
泣いて、照れたように笑ったラズワードをみて、ハルはぎゅっと胸が締め付けられた。ああ、ラズワードにどうしようもなく恋をしている。苦しいくらいに愛している。
もう一度、唇を重ねた。そして自分の背に回されたラズワードの腕を解くと、指を絡めてシーツに彼の手を縫い付けた。ラズワードはちらりと絡められた指先をみて、静かに微笑む。
「ハルさま。俺……すっごく、ハルさまに愛されていますね」
「な、あたりまえだろ、俺、すごくラズワードのこと愛してるよ、大好きだよ」
「……、」
消え入りそうな声で、囁く。「幸せです」、と。みっともない、とハルは思う。こんなに子供のように泣いてしまう自分が。ラズワードの口から「幸せ」と、そんな言葉を聞けただけで堪らなく嬉しくて、バカみたいに泣いた。仕方ないんだからこの人は、そんな目でみてくるラズワード自身も泣いていて、そんな彼が本当に愛しかった。
「……動く、よ」
「……はい」
腰をひく。そうすればラズワードは目を閉じてため息のような甘い声を唇から漏らす。
今度は、ゆっくり、それを押し込んだ。
「あぁ……」
「痛くない……?」
「は、い……」
「はやく、するよ」
ハルは少しずつ、速度をあげてゆく。腰がぶつかる振動と共に這い上がってくる熱、中でずるずると膨らんでゆく甘い痺れ。
ベッドの軋む音。肉のぶつかる音。僅かな水音。そしてそこに混じる、二人の吐息。
「あっ、あっ、あっ、」
「ラズ、ワード……好き、好きだ……」
「ん、あぁっ、はる、さま、……は、ぁあ、ッ、おれ、も……」
快楽の渦に責め立てられる。苦しくて、甘くて、くらくらして、暖かくて、わけがわからなくなってしまいそう。カーテンの隙間から零れる月明かりが、ゆらゆらと冷たい空気に泳いでいる。覗く星々はきらきらと漣のように輝いている。息のできないほどに胸がつまって、幸せで心がいっぱいになって、まるで溺れているようだった。身体を波のような快楽が満たしていて、揺れていて、このまま溺れていたいと。そう思った。
「あ、ラズワード……」
「……、は、い……」
「いったん、ぬく、から……でそう」
「……、だめ、です」
限界を感じたハルが腰をひこうとすれば、ラズワードは脚をハルの腰に回してそれを阻止した。そして目を見開いたハルに、いっぱいいっぱいの笑みを向ける。
「……ください」
「え、……」
「なかに……はる、さまの……」
「バカ、……ごめん、もう、だめだ……」
びくん、とそれがなかで跳ねる。ハルは全身でラズワードを抱きしめ、顔をその首筋に埋めた。ラズワードもハルにしがみつき、ナカで溢れてくる熱の快感を全て受け止める。どく、どく、と確かにそれがナカで吐き出されてゆく感覚にラズワードは酔いしれた。
「ん、んん……ッ」
「すご、い……ラズワード……しめつけ、」
「……いっしょに、イっちゃいました、ね……」
「……うん」
「……すごく、うれしいです……」
全て吐き出して、しばらく繋がったままだった。抱き合って、意味もなく肌を触れ合わせて、キスをして。甘くて熱くて、幸せで苦しくて。ずっとずっと、この時が永遠に続けばいいのにと、そんなことを願って。二人で溺れていった。
「ハルさま……」
「うん……」
「愛しています」
この暖かさが、これこそが、愛なのだと知って。そしてそれがなぜか途方も無く儚いものに感じて。たまらなく切なくなって、絶対にこれを離したくないとそう思って。ラズワードは何度も何度もハルの名前を呼んで、「愛している」と言い続けた。もしもこの声が月に届いたのなら、覚えていてくれるだろうか。そうしたならばきっと、この想いを永遠のものにしてくれるだろうか。
ねえ、それは。なんという夢物語なのだろう。
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