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「……、」
酷く、恐ろしい夢に思えた。誰もでてこない抽象的な夢でありながら、なんだか未来を暗示しているかのような。あの青は一体なんなのだろう。
「おはよ」
「……ハルさま」
ふと降り注ぐ暖かな声にラズワードは顔をあげる。そこにはハルが微笑んでいて、その笑顔を見た瞬間、ラズワードはほっとして笑う。
「……今起きたんですか?」
「ううん。ずっとラズワードの寝顔みてた」
「……悪趣味。人の寝顔まじまじと見ないでください」
いつもはラズワードのほうが早く起きるためこのようなことはなかったのだが、今日は違っていた。昨夜ハルにたくさん愛された身体はどうやら休養を欲していたようで、うっかり惰眠を貪ってしまったらしい。いつもよりもお寝坊なラズワードを、ハルはここぞとばかりに見つめていたようだ。
「ねえ、ラズワード」
「はい?」
「ラズって呼んでいい?」
「……、どうぞ、お好きなように」
突然昔よく使われていた愛称で呼ばれて、ラズワードは動揺する。驚きと、それから寝顔を見られていた恥ずかしさを引きずって、おもわずぶっきらぼうに返事をしてしまった。しかし、ハルはそんなことを気にする様子もなく、嬉しそうに笑ってラズワードに抱きついてくる。
「……ラズ」
「……はい」
「なんか、本当に付き合ってるって感じしてこそばゆいな」
「あんまり恥ずかしいこと言わないでください……」
まともに恋愛などしたことのないラズワードは、慣れない恋人特有の触れ合いに気恥ずかしくなって、顔を真っ赤にしてしまった。そんな顔を隠すように、額をハルの胸に押し付ける。一糸纏わずに触れ合う肌は、じわじわと触れたところから暖かくなって気持ちいい。ラズワードはハルの腕の中で、とろんとした表情でまどろんだ。
「ラズ……可愛い」
「あ、ちょっと、ハル様……」
ハルが布団をめくり、ラズワードを仰向けにさせて覆い被さった。首筋に、鎖骨に、ゆっくりとキスを落としてゆく。
そして、ぱくりと胸の突起を口に含んだ。
「あぅっ……ハルさま、朝からこんな……」
「……しないよ。なんか無性にラズの乳首舐めたくなっただけ」
「……、やっぱりハルさま、へんた……あッ」
口の中で舌を使ってころころと乳首を転がすと、ラズワードがかあっと顔を赤らめてのけぞった。ちゅう、と音をたてて吸ったり、軽く噛んだりすればラズワードの反応は少しずつ可愛らしくなってゆく。
「あ、あぁ……ん、あ」
口では抗議の声を発しながらも、ラズワードはその愛撫に悶えていた。部屋の中にはラズワードの甘い声がふわりと広がってゆく。乳首をしゃぶるハルの頭を抱え、体をくねらせた。
朝の日差しがカーテンから差し込んでくる。吐息と、儚い声が冷たい朝の空気に溶けて、そこはまるで二人だけの世界。怖い夢も、忘れていきそうだった。こうして暖かな時間をハルと過ごしていると、心の中の冷たいものが少しずつ消えていきそうだった。
「あぁあ……ハルさま……ハルさま……」
甘い快楽の渦に飲み込まれていって、ラズワードはハルの名前をうわ言のように呼ぶ。そして、そのたびにラズワードは心が満たされてゆくような感覚を覚えた。何度も何度も名前を呼んで、どこか、心の中、ぽっかりと空いたところを埋めてゆく。
「あぁ……ぅ、やぁ……」
「なんでラズこんなに可愛いの。感じちゃってもうかたくなってる」
「あっ……! まって、触らな……あぁ……ッ」
とも惜しくて、ラズワードはハルの背に手を回し身を寄せた。
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