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「な、なんですか、これ……!」 「なにって、淫魔術だけど?」 「どういう魔術なんで……あっ」 「ん、良い反応」  つうっ、とペンがラズワードの身体をなぞる。ゾクゾクっと妙な感覚が下から這い上がってくるような感覚に、ラズワードは身をよじった。 「ちょっと、やめて、ください……!」 「研究所では研究者に従え」 「あっ、……ひゃ、」  ぐ、とペン先で乳首をつぶされる。リノは片方の乳首を引っ張りながら、もう片方をペンをぐりぐりとねじりながら刺激した。ハル以外の男にそういったことをされるのは嫌で仕方なかったが、どういうわけか身体がいうことをきかない。刺激されるたびに視界に白い火花が散って、身体がびくびくと跳ねて、イッたときと同じような感覚が何度も何度も迫り来る。 「んっ……、んん……」 「我慢しちゃって……可愛いね」  ラズワードは手の甲で必死に声を抑えた。感じている自分が嫌になって涙まで流れてくる。耐えようとして身体に力が入って、机の上の紙束に腕をぶつければ、それはバラバラと散ってゆく。 「あ、君の下敷きになっている資料、大事なやつだからシワにならないようにして。動くなってこと? わかる?」 「……、……ッ」 「そうそういい子。おとなしくイけばいいんだよ……ほら!」 「あッ……――!? やめっ、だめっ、」 「ダメ? 嘘つくなよ、こんなに感じてるくせに!」 「あっ、おねっ、がい、ッ、だめ、だめ、あ、あ、」  ぱち、ぱち、と視界が白む。茹だるような強烈な熱に身体が支配される。虚ろに涙を流しながらびくびくと身体を痙攣させ始めたラズワードをみて、リノは実に楽しそうな笑顔を浮かべた。  そして、指におもいっきり力をこめた。 「ああぁあぁ――――ッ」  ガクっと大きく跳ねたラズワードの身体を、リノが抱きとめる。そして、そのまま机の上にたたきつけた。ぐったりとしながらはあはあと弱々しく息を吐くラズワードに覆いかぶさって、笑う。 「ん、いいね、これならちゃんとわかりそう」 「……、あ、の……りの、さん……」 「んん~なるほどねぇ~これはきっちり分析しないとわからないな~」 「……いまの、まじゅつ、が、いんまじゅつ、なんですか……」 「すごい、すごいな~こんなヤバイの初めてみたよ、興奮してきた」  リノは急に身体を起こしたかと思うと、紙を取り出して凄まじい勢いで何かを書き始めた。ぼんやりと机の上に横たわるラズワードのことはまるで無視をしているかのようだ。ラズワードは急激に絶頂をむかえさせられたものだから、身体がだるくて動く気にもなれない。ただ、リノが作業を終わらせるのを待つばかりであった。  ガリガリとペンが走る音を聞きながら、ラズワードは以前レヴィに言われたことを思い出す。あえて神族が剣奴に教えない魔術があるということ。それがもしかしたら、この「淫魔術」なのだろうか。それがなければ神族には敵わないと、レヴィはたしかそう言った。こんな魔術を戦闘でどう使うのかわからないが、対策を知らなければ、もし使われたときに何もできなくなってしまう。今の自分のが、まさにその状態であると気付き、ラズワードは焦りを覚えた。 「よーし、記録完了~」 「り、リノさん……!」 「え?」 「今の魔術、ちゃんと教えてもらえませんか……、水魔術、ですよね?」 「え~? だめ~」 「な、なんでですか」  身体を起こし、唖然とラズワードが問えば、リノはペンをくるくると回しながらラズワードに近づいてくる。そして、ビッ、とペンをラズワードの胸に突き立てると、にっこりと笑って言い放つ。 「君が施設の商品だからだよ」 「……それがどうして理由になるんですか?」 「君はたしか剣奴だったよね? 剣奴は、たしかに戦闘術を知り尽くした特別な奴隷だ。でも、剣奴は剣奴であるまえに性奴。主人の性的な欲求に完璧に応える人形でなくてはならない。……たとえ、君が今そのような状況になかったとしても、僕達は君をそうした商品として売っているんだ」 「……それは、理解できますけど。……でも、なんで」 「……淫魔術は、水の魔術を扱うことのできる者なら使えるはずなのに、あえて調教師たちは教えない。考えてみてごらん、理由はすぐにわかるはずだ。……もしも淫魔術を性奴が使えてしまえば、せっかく性奴として身体を開発してやったのに、快楽を自在に操ることができるから身体を刺激されても抵抗することができてしまう。そんなことができれば、性奴が主人のもとから逃げ出す可能性が一気にあがるだろう? なんのために僕達が君等性奴をインランにしてやっていると思ってるの」 「……、」 「どうしても知りたいなら自分で調べることだね。僕は一応施設の人間としてカテゴライズされるから教えることはできないんだよ。特に君とか、ノワール様が熱をいれて育ててたみたいだし? ノワール様に怒られたら命がいくつあっても足りない」  淫乱ときっぱりと言われたことに弁解したい気持ちもあったが、リノの言い分には妙に納得してしまった。ラズワードはそれ以上請うこともできずに黙りこむ。 「ねえ、なんで淫魔術なんて知りたがるの」 「そ、それは……」 「――あ、そう……ふ、ははは! ノワールさんを殺したいんだぁ~へえ~大胆だなぁ」 「……っえ、なんで」  何も言っていないはずなのにリノはラズワードの考えていることをよんだかのように笑っている。無意識に口に出してしまったのかと思ったが、どうやら違うようだった。 「心をよむ魔術。記憶をよむ魔術と似ているんだよ」 「……、」 「それよりさ、君、ノワールさんのこと殺したいんだね。……どんな事情か知らないけどさ、もしそれなら」  ペン先が、つ、と身体をなぞる。それは上へと登って行き、やがて、喉へたどり着く。 「――僕も敵になるわけだ」 「……っ!?」  殺意が身体を貫いたような気がした。ラズワードは反射的に立ち上がると、リノを勢い良く引っ張り机に叩きつける。そして、腰のナイフを抜くとそれを首に突きつけた。  リノは驚いたような顔をしていたが、やがて吹き出し、笑い声をあげ始める。

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