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「あ、あの……ハル様?」
屋敷内の灯りも消え始める頃。ハルはラズワードを押し倒した状態から全く動けないでいた。焦れたラズワードが自らハルにキスをしてみても、余計に固まるばかりで行動に移そうとしない。
「あ、その……べつに毎日しなくてもいいんですよ? 今日も疲れているでしょう? 今日はゆっくり寝ましょうか」
「そうじゃない、すごくしたい」
「……もしかして、怒ってますか? ……リノさんのこと……」
「……ッ」
(いまだ! 言え! 言うんだ! 「悪い子だな……お仕置きだ」って……)
「い、言えるか恥ずかしい!!」
「は、ハル様!?」
ガバっと自分の上に塞ぎこんでしまったハルにびっくりしてラズワードは体を起こす。何故か一人で赤くなっているハルに何が起きたのかと疑問に思ったが、全くその答えに辿りつけない。
「……ラズ」
「はい……」
「……ひかない? 何したいって言ってもひかない?」
「……な、なんですか……そんなにヤバイことしたいんですか」
「……あのね、絶対ひくかなって思ってやっぱりやめようって思ってたんだけど、どうしても妄想が止まらないんだよね」
「……だからなんですか、妄想してる時点でアレですよもうハッキリ言ってください」
「……きプレイさせてください」
「はい?」
「お仕置きプレイをさせてください!」
「……はぁ?」
自分の上から飛び退いて土下座までしだしたハルを、ラズワードはあんぐりと見つめた。そして、視線を部屋の片隅に申し訳なさそうに置かれた紙袋に移す。恐る恐る近づいていってその中身を除いたラズワードは「うわ」、となんとも言えないような声を発した。適当に中からバイブレータをとってスイッチを入れてまじまじと眺めているラズワードを、ハルは苦笑いをしながら見つめた。ラズワードがため息をつくと、ハルはびくりと肩をゆらす。
「ハル様」
「……はい」
「俺は、本当に申し訳ないって、そう思ってたんですからね! それを貴方は……」
「すみませんでした」
「まったくー……」
ラズワードはハルのもとに近づいていく。そして、しょんぼりとしているハルの頬をなで、はっと顔を上げた彼に、にっと笑ってみせた。
「……できるんですか?」
「え?」
「……俺、ちょっとひどくされるほうが好きなんですよ?」
「……え、……えっ!?」
ラズワードはぐいっとハルを引っ張って、ベッドに倒れこむ。慌てて手をついたハルは、自分の下のラズワードを見て、思わず息を飲んだ。シーツに散る髪、勢いで乱れたゆったりとした服、吐息の溢れる唇、揺れたまつ毛。ラズワードはそっとハルの手をとって、自分の服の裾にゆっくりと差し入れた。自らの心拍数が上がっていくのを、ハルはただただ感じていることしかできない。かあっと顔に熱が昇ってくる、汗が吹き出てくる。
「……ハル様……俺、なにされちゃうんですか?」
「んー」
「……あ、」
ハルはラズワードを起こしてやって後ろにまわり、自分に寄りかからせる。自分の腕にすっぽりと収まったラズワードが不安と期待の混じった目で見上げてくるのにドキドキしっぱなしだったが、ハルは黙ってひとつ、袋から取り出した。それをみたラズワードが、少しだけ顔を赤らめる。
「……前、見て」
「……、」
ベッドの前には、大きな姿見があった。ハルにくたりと寄りかかる自分と、そしてハルの手に握られた赤い縄にラズワードは目をそらす。しかし、ハルはラズワードの顎を掴むと、優しく、無理やり前を向かせた。ゆっくりとカットソーをたくしあげ、胸を露出させる。そしてそこを強調させるように肩を引いてのけぞらせて、赤い縄をそこに這わせた。
「ラズ、肌白いからすっごくこれ似合うね」
「……ッ、ハル様、はずかし……」
「ほら……前むいて」
するすると赤い縄がラズワードの身体を飾っていく。それはたくしあげられた服ごとラズワードを拘束していって、そしてラズワードの腕を後ろ手に縛り上げた。複雑な縛りではないもののどこか胸を強調するような縛り方に、ラズワードはかあっと顔を赤らめる。
「……可愛い」
「……うそ、全然かわいくないです!」
「えー、だって、みてよ。胸ぎゅってされて感じてるんでしょ? ここ、ツンってたってるよ」
「やっ……ひっぱらないで……」
「可愛い反応だね、ラズ」
乳首をつまんで、きゅうっとひっぱりあげて。縄で強調されたそこはどこか物欲しげ。ぴくんぴくんと揺れるラズワードに、ハルはちゅっとキスを落とす。自分の腕の中で藻掻くラズワードが、ひどく愛おしい。
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