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***  鍵は、事前に受け取っていた。ノワールは指定されたホテルの部屋の前に立つ。これから「あの人」に会うのかと思うと苛立って仕方ない。軽く舌打ちをして、扉を開ける。 「――あら、もしかして……貴方がノワール様?」 「……?」  扉を開ければそこにいたのは、ノワールよりはいくらか年上と思われる女性がいた。予想していた人物と違っていたためノワールは一瞬驚いたが、すぐに事情を把握する。ああ、そういうことか、と頭のなかでため息をついてノワールはにっこりと微笑んだ。 「ええ、そうです。はじめまして、ノワールです」 「……まあ……こんなに素敵な方だとは思っていませんでした。あの組織のトップっていうくらいですから、とんでもない強面を想像していたんですけど」 「はは……いつも想像と違うって言われるんですよ。あのローブの下はこんなに貧弱な男だったのかなんてね、よく言われます」 「貧弱だなんて……私は好きですよ、貴方のような方。今日のスーツもとても似合っていらっしゃるわ。……ねえ、ところで」 「……ああ……そうですね、お互いあまり時間もありませんし」  ノワールはネクタイをゆるめて、シャツの第一ボタンを外す。腕時計も外すと、ベッドサイドに置いた。そんな動作に見惚れる女性にノワールはゆっくりと近づいていって、するりとその細い指で頬をなぞる。そしてふるりと震えた女性に、そのまま口付けた。 「あっ……」  つ、と腰を撫でると、女性は小さく仰け反った。そっと耳を唇で食み、そして指先で身体を愛撫してゆく。 「ん、あっ……」 「……グレイさん……いいんですか、このまましても?」 「……あ……、ま、って……耳元で話さないで……」 「……耳、弱いんですか?」 「……ぁあっ……! ち、が……あなたの、声……」 「俺の声がダメなんですか? ……じゃあこのまま話させてもらいますね。貴女、旦那様がいらっしゃるようですけど……大丈夫ですか?」 「……いいの、よ……あの人だって、浮気しているもの……」 「……それは……寂しい想いをされていたんですね」 ――ノワールとこの女性は、初対面だった。それでもノワールが彼女と挨拶を交わすこともなく彼女とこんなことになったのは、わけがある。 「今夜は全部忘れてください。俺が貴女のことを、精一杯、愛しますから」

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