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***  マクファーレンの屋敷はレッドフォードの屋敷とはまるで雰囲気が違っていた。メイドや兵士たちが、あまりレヴィに対してかしこまっていない。屋敷全体に和やかな空気が漂っていて、レヴィの性格から予想されるものと全く違っていたためラズワードは驚いてしまった。レヴィは少し話しただけでもわかるほどに、横暴だ。もっと屋敷内はギスギスとしていると思っていたのに。 「こっち。俺の部屋」  通されたのは、レヴィの寝室と思われる場所。魔術を教えてもらうのになぜ寝室?とラズワードはレヴィに疑いの目を向けたが彼は全く気にする様子はない。 「おまえ、調教師に魔術教わったって言ったじゃん? それってさ、ノワールだろう?」 「えっ……なんで知って……」 「剣の使い方がまるっきりノワールのそれだったんだよなあ……まあ若干ノワールよりは劣っていたけど」 「……え、俺の戦っているところみたの……ほんの一瞬じゃないですか、わかるんですか……!?」 「もちろん。神族の連中のデータは全部頭に叩き込んでいる」 ――信じられない。ラズワードはレヴィの発言に瞠目した。神族が何人いるのか、彼らを区別できるほどに戦い方の特徴を見つけることができるのか。思った以上に目の前の男が恐ろしい人物であると、身震いしてしまう。 「レヴィ様……貴方の頭の中どうなってるんですか……前、自分の風の魔術以外の火・水・土の魔術全て知っているって言っていましたけど……それ、とんでもない情報量になりますよ」 「俺の頭……? 普通さ。そこら辺の奴らとなんら変わりない。むしろおまえよりも頭悪いと思うぜ?」 「そんな馬鹿な、だったらどうして」 「血の滲むような努力をした。持っている時間全てを知識の吸収に使った。それだけのことだよ」 「……っ」 「平凡な人間が強くなるためには、ただ努力する。それしか方法がないんだ。俺は魔力量は平均よりもほんの少し上な程度。生まれ持ったそれをカバーするための知識を、必死に身につけた」  ……正直、驚いた。このレヴィという男が、努力を積み重ねるタイプの人間だとは思っていなかったのだ。ますます彼という人物がわからない。マクファーレンという肩書を力で奪うような暴君は、私利私欲のために生きる身勝手な人間だと思っていた。しかし、そんな人間がひたすらに努力で強くなったと言う。全くわからない。権力が欲しかったのだろうか。 「……なぜ、そこまでして強くなろうとしたんですか」 「……気になる?」  尋ねてみれば、レヴィはふふんと笑った。ずい、とラズワードに顔を近づけると、レヴィはにたにたと笑いながら問う。 「……男が一番強くなりたいと思う時はなんだと思う?」 「……力を誇示したい時?」 「ああ? おまえマジでそう思っている?」 「いえ、貴方の考えに合いそうな答えを言っただけです」 「うわ、心外だな」  はあ、とレヴィはため息をつく。胸元から、扇をぬくとそれをビシリとラズワードに向けた。そして、自信満々、こう言ってみせたのだ。 「――大切な人を救いたいと思ったとき。そうだろう」 「……っ」  ぱっと視界が明るくなるような錯覚を覚えた。レヴィの言葉は、ラズワードが信念としているもの。大切な人を救うために、強くなりたい。凸凹がぴたりと当てはまる快感にも似たような彼への共感に、ラズワードは目をぱちくりと瞬かせた。 「……レヴィ様は、誰か救いたい人がいて……そんな努力を」 「そうだな。強くなければ救えないから」 「そうだったんですか……」  感心したようにため息をついたラズワードに、レヴィは笑いかける。 「ま、そういうことで。さっさと魔術の習得をやろうぜ。こっちにこい」  レヴィはラズワードの手をとって、部屋の奥へと進んでいった。そして、ラズワードをベッドの上に放り投げる。さらにレヴィがラズワードの上に馬乗りになってきたところで……さすがにおかしいと思ってラズワードは制止をかけた。 「ちょ、ちょっと待って下さい、何をするんですか」 「何って。魔術を覚えてもらうんだよ」 「この体勢になんの意味が」 「え? いや、体で覚えてもらおうと思って。そっちのほうが早いからさ。淫魔術。それを教えてやろうと思っているんだけど」 「い、淫……魔術……?」  言葉の響きを聞いて、それが性的な魔術であるということくらいラズワードはすぐにわかった。この状況にも納得がいく。しかし、その魔術を今教えられるということには納得がいかない。 「ま、待ってください! その魔術を覚えたところで神族との戦闘には関係なくないですか!」 「あるよ。おまえはその魔術への抵抗手段をもっていない、そして神族はそれを知っている。あいつらは勝つためなら魔術の種類なんて関係なく使ってくるぞ。それから……淫魔術はなにも興奮を促すためだけの魔術じゃない。夢魔術もそれの仲間に入る」 「夢……?」 「悪夢をみせたり、幻覚をみせたりする魔術だ。むしろ戦闘にはそっちが使われるかもな」  レヴィの言葉に、ラズワードは何も言い返せなかった。たしかに、ノワールが淫魔術を戦闘に使ってこないという保証はない。そして使われてしまったら……きっと自分は、情けなくも戦闘不能に陥ってしまう。  これは……教えを請うしかない。 「……あの、じゃあ……お願いします。教えてください」 「よし、ものわかりがいいな」  ただ……淫魔術の訓練なら、もしかして。ラズワードの頭のなかに、ひとつの不安が浮かぶ。そして、その不安はすぐに的中した。レヴィが、ラズワードのシャツを脱がせてきたのである。

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