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「――ッ」  先に攻撃を仕掛けたのは、ハルだ。一気に火炎をレヴィに向かって放つ。  レヴィについて――わかっているのは、戦術に長けているということと、魔力量は多くないということ。ハルは今までレグルスに参加してきたハンターたちに比べると、圧倒的に魔力量が多い。レヴィが今まで魔力量の差を繊密な戦術によって埋めてきたとしても、ここまで魔力量の差が開けば力押しで勝てる可能性もある。そもそも魔力が切れてしまえばいくら戦術に長けていようと勝利は不可能。そのため、まずは魔力量を生かしてひたすら遠方から攻撃をしかけ、レヴィの魔力を削る……というのが、ハルの作戦だ。 「う……」  しかし、レヴィは一切顔色を変えない。  ハルの放った火炎は、レヴィを避けるようにして方向が変わってしまう。それをみたハルは苦虫を噛み潰したような顔をした。……予想していなかったわけではない。今、レヴィがやったのは自分の周囲に風を発生させてハルの炎の向きを変えてしまうというもの。少量の魔力の消費でできるものだ。  レヴィは風の天使、そしてハルは火の天使。火と風では、火が不利―― 「……くそ、」  作戦は変更。スピアに魔力を込めて、直接叩き込む。ハルは接近戦に持ち込むべく、駆け出す。  あまり、接近戦はやりたくないと思ってた。現役でハンターをやっているレヴィの方が、接近戦は圧倒的に得意だからだ。加えて武器の違い。スピアは剣よりもリーチはあるが、一定以上の距離を詰められてしまうと攻撃できない。スピードは恐らくレヴィの方が上で、すぐに距離を詰められてしまう可能性も高い。 「う、」  やはり、早い。接近戦に持ち込み、ハルはスピアを突き出したが、あっさりとそれはガードされる。刃に灯した炎もレヴィの剣から放たれる風のせいでレヴィには届かない。そして、その風はレヴィが剣を振るう瞬間に流れを変え、攻撃のスピードを早めている。  とにかく、距離を詰められるわけにはいかない。スピアを突き出せる距離を保たなければいけない。レヴィが近付いてくることのないように、ハルは魔力量の多さを活かして、大量の炎を放つ。  劣勢か優勢か――どちらかと言えば、劣勢。風と火の相性の悪さが痛い。体力もレヴィの方が多いため、接近戦は非常に分が悪い。  しかし、全く勝機がないわけではない。  剣術の上は、ラズワードのほうが上だからだ。訓練のときに相手をしてくれたラズワードのほうが、強い。 「……」 「ラズワードさん、どうかしましたか、難しい顔をして」 「いや……」  二人の戦いをみていたラズワードは、顔をしかめる。妙だと思ったのだ。思っていたよりも……レヴィが強くないと感じた。  レグルスに出るための条件は、全ハンターの中でトップ2の成績を収めること。レヴィはレグルスで何度も勝利を収めている。いくらハルがハンターのなかでも強い方であったとしても……正直、ラズワードはレヴィがもっと余裕を持って戦うと思っていた。今の状態はほぼ互角だ。風と火の相性に大きく救われているだけで、レヴィ自体の戦闘力が大したことのないようにみえる。 「……なにか、まだ手を隠している?」  よくみてみれば、どこか剣の使い方がぎこちない。今までハンターのナンバーワンに君臨していたにしては…… 「金の龍……」 「え?」  ふと、ミオソティスが何かを呟く。不思議に思ってラズワードが彼女を見やれば、彼女はじっとレヴィを見つめていた。 「今、頭の中に金の龍が……」 「金の、龍……」  ラズワードのなかで、パズルのピースが合わさるような感覚がはじけた。  レヴィの屋敷へ行った、あの夜。ラズワードのあげた声で飛び起きたレヴィが、咄嗟に掴んでラズワードの首に突き付けてきたもの。金の龍の装飾の、重みのある扇・風姫。あのような扱いをするということは、風姫は普段武器として使っている、ということではないのか。つまり……レヴィの本来の武器は剣ではなく、風姫―― 「……くっ、」  大量の火炎をまききれなかったレヴィが視界をとられ、その隙をハルにつかれる。足を攻撃され倒れこんだレヴィに、ハルはスピアを大きく振りかぶった。  接近戦でもラズワードの訓練のおかげでなんとかおせそうだ。ラズワードの剣の速さと重さに慣れた自分には、レヴィの剣術は脅威ではない。 ――勝てる。  炎の宿ったスピアは、レヴィの胸元の薔薇へ―― 「あ――!」  会場が一気に沸いた。地鳴りがなるほどの、歓声の渦。  薔薇の花弁が舞う。勝者の決定だ。  薔薇の花弁を散らしたのは――  ハル。  勝者は、レヴィだった。 「……ッ、」  会場を呑む歓声のなか――ハルは固まっていた。何が起こったのか、わからなかった。レヴィはよいしょ、と立ち上がり静かに笑う。 「勝つ瞬間っていうのは……一瞬、油断するもんだから、隙ができちまう」  ハルの攻撃は、あと少しでレヴィの薔薇に届くところだった。しかし、レヴィの攻撃の方が先に届いていたのだ。ハルはいつの間にやらレヴィの手にある、扇に目をやる。 「俺の本当の武器は、こっち。鉄扇・風姫。風魔術と最高に相性のいい、魔力投影率100%のプロフェットだ」 「……100%」 「ちなみに最初に使っていた剣の投影率は50%ね。だから風姫の方で放った俺の魔術は威力もスピードも二倍以上。もっとも、こっちで始めから戦ったところでおまえの魔術には元々の魔力量が違うからかなわない。でも……おまえが勝ちを確信した瞬間、そこなら……すげえ隙が出来ていたからな、防御もできないおまえの心臓にむかって、」  バーン、とレヴィは風姫を銃にみたてて振るう。ハルは何も言うことができずに、ただ呆然としていた。負けたことが悔しいのではない、負けた先にある絶望が―― 『勝者は、レヴィ様! ――おめでとうございます! ではレヴィ様、欲しいものを!』

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