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「だ、め……」
くらくらしてくる。鼻孔をくすぐる、いつもの香水の匂い。つけすぎたらしいそれが、体の熱を煽ってゆく。
「……あ、……だめ……」
新しいスタイリング剤は、微香性のものなのだろうか。いつもと違う香りが彼に混じっている。少し彼が変わったような気がして、とくとくと鼓動が高なってゆく。
「だめ……ノワール、さま……」
腰を抱かれ、頭を引き寄せられた。そして、唇を舐められる。ぞく、と下腹部から甘い波が這い上がってくるような感覚がして、ラズワードは堪らず体をくねらせる。何度か舐められて、とうとう舌の侵入を許してしまって……後悔した。熱い。咥内を舌で掻き回されて、ずるずるとなかに侵入されていくような心地がする。どこかを舌で触れられるたびに、びく、びく、と身体が跳ねてしまう。
「ん……ふ、……」
舌を、もっていかれる。気付けばラズワードも舌を伸ばして、ノワールのものと絡めていた。あまりにも気持ちよくて、頭のなかが蕩けてしまいそう。もう、夢中でそのキスの虜になって、彼を求めていた。
「あ……」
唇を離されると、ラズワードはくたりとノワールに身体をあずける。はーはーと熱い息を吐き、火照った身体を冷まそうとする。ノワールは軽くラズワードの肩を掴んで、そのとろんとした顔をのぞき込むと……囁く。
「そっちいっていい?」
「え……」
頭がぼんやりとして返事のできないラズワードに、ノワールは静かに微笑みかけた。あ、あの夜の顔……そんな風にラズワードが思っていると、ノワールはラズワードの座っているシートのレバーをひいて、倒してしまう。仰向けに横になる状態にされ、その上にノワールが乗ってきて……そこで、ラズワードはノワールの言葉の意味を悟る。
「の、ノワールさま……」
「10分」
「え、」
ノワールが腕時計をちらりとみる。
「10分、好きにさせてよ」
はっ、と顔が熱くなった。ノワールが時計を外し、ダッシュボードに置く。その仕草を見上げ、ラズワードは自らの心拍数がものすごい勢いであがってゆくのを感じた。逆光で影のできた、ノワールの顔。時計だけが光を反射して、それが腕から外されていくことが、これからの行為の始まりを意味している。
「……カーセックスしたことある?」
「な、っ……」
「ないよね。俺も、初めて。今日は時間ないから最後までできないけどね」
ふ、と微笑んだその顔に、くらりと目眩を覚えた。は、は、と自分のあがっていく息にラズワードは焦りを覚え、さらに呼吸は激しくなって……悪循環。
ノワールはするすると自らのネクタイを外し、ほどいたそれを持ちながら、ラズワードの手を掴む。
「……結構激しいことしてるじゃん」
「あっ……」
ラズワードの袖をめくりあげ、現れた手首についた痣をみて、ノワールが笑いながら言う。ハルと、手錠を使ったセックスをしたときについた痣だ。指摘されると恥ずかしくなって、ラズワードは目をそらすがノワールは手を離してくれない。しかも……その手首を頭上にまとめあげ、ネクタイで縛ろうとしている。
「や、やめてください……」
「どうして? 好きでしょ? 虐められるの」
「だめ、なんです……ノワールさまとこういうことしちゃ、だめ……」
「……は、」
「あっ、やだ……」
ラズワードのささやかな抵抗も虚しく、手首はネクタイで縛り上げられてしまった。きゅ、と手首が締め付けられた瞬間、ぞく、と変な感覚が襲ってきてラズワードはぎゅっと目をとじる。ノワールはそんなラズワードの顔に、手のひらを滑らせた。すうっと指でラズワードの唇を触り、静かな声で言う。
「……こんな顔で抵抗されても、燃えるだけなんだけど」
ぐ、と太腿を掴まれて、押し上げられる。開脚させられると、ノワールがそのまま覆いかぶさってきた。狭い車内、必然的にラズワードの脚はノワールを抱き込むようなかたちをとってしまう。
「……期待しているような顔して」
「……や、だ……ノワールさま……」
「ネクタイなんてすぐとれるだろ。そんなにきつく縛っていない。嫌なら、とれば?」
「……っ」
ノワールはふるふると震えるラズワードを至近距離でみつめ、意地悪に微笑んだ。すうっとその黒い瞳が細められただけで、ぞくぞくと身体の芯が熱くなってくる。顔を真っ赤にして潤んだ瞳で見上げてくるラズワードをみて、ノワールは満足気に口角をあげる。
「……興奮してるでしょ。息あがってる」
「……、」
「……俺も、してるよ」
ノワールは、そうラズワードの耳元で囁いた。びく、とラズワードの身体が跳ねる。甘いその声が脳を犯して、理性を破壊する。
ノワールの手がラズワードのシャツの中に入り込んできて、胸元を弄った。指先で乳首を弾いて、つまんで、こねて、じりじりとラズワードを責め立てる。
「あっ、あ……あ……」
もう片方の手は、ラズワードの手と重ねて、指を絡めしっかりと掴んでいる。露出も殆していないのに、全身で繋がっているような。狭い、密着空間がそんな錯覚をさせてしまう。ノワールの体重を受け止めて、そうすれば彼に支配されているような気がして。身じろぎもできない小さなシートの上では、まるで彼に囚われてしまっているよう。
「あ、あ……だめ……あっ……」
ノワールはラズワードの耳を集中的に唇で責め立てた。自分が開発してやった、ラズワードの性感帯。ここが一番、ラズワードは弱い。それを知っているノワールは、しつこくそこを舐めてやる。耳孔に舌をねじ込んで、みみたぶを唇ではさんで、息を吹きかけて、意地悪な言葉をささやいて。ときおりラズワードの表情を確認すれば、ラズワードはすっかりとろとろと熱に耽っていた。うっとりとしたように目をとろんとさせて宙をぼんやりと見上げ、薄く開いた唇から甘い声をこぼしている。
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