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「……」  ノワールの戦い方というのが、みえてくる。彼は過酷な状況に陥るほどに、冷静になるタイプだ。コルコンディアからは、ノワールがものすごい勢いで頭を回転させているのがわかった。どこが相手の弱点か、弱点らしきところはあるか、相手の動きからそれは読み取れるか……。しかし、ラズワードはその逆で、そういった状況になると頭に血がのぼって本能で戦ってしまう。あれこれ考えるよりも、直感で剣をふるう。 (こういう戦い方する人に、俺は勝てるのかな……) 「――ラズワード」 「……! はい」 「相手の弱点だけど……粘膜のみえている部分のみ、だ。全身が硬い鱗で覆われていて攻撃が全く通らない。目か口を狙うぞ」 「目か、口」  ノワールが相手の弱点の分析を終えたらしい。相手の大きさから考えると随分と小さなターゲットだ。それに、相手も自分の弱点くらいは理解しているだろうから、遠方から攻撃してもガードされるだろう。 「接近して攻撃しますか」 「そうしたほうがいい」 「でもどうやって」 「……俺のほうが使える魔術の種類が多い。俺が相手の気をひきつけながら、ラズワードのサポートをするから……ラズワードが、いけ」 「……はい」  水の魔術しか使えないラズワードよりは、全ての属性の魔術を使えるノワールのほうがサポートには向いている……というのはわかるが、任されるということにラズワードはプレッシャーを感じてしまった。ラズワードが精神を落ち着けようと深呼吸をしていると、何者かが接近してくる。 「……!」  羽の生えた白い獣。鷲の頭に獅子の体、容姿の特徴からそれが、ノワールの契約獣であるグリフォンであるとラズワードは判断する。 「乗れ」 「えっ」 「……おまえなんかに力を貸すのは癪だが、今はそう言っていられないからな。おまえの足になってやろう」  じろ、とグリフォンがラズワードを睨み上げる。その眼光にラズワードは気圧されそうになったが、おずおずと彼の言葉にしたがって、その背中に乗る。鞍がついているわけでもないその背中の乗り心地はあまり良くなかったが、振り落とされないようになんとかバランスをとる。  グリフォンが遠方のノワールと顔を合わせる。ノワールが「俺の視界に入るように動け」とグリフォンに命じているのが、コンコルディアを通してラズワードには聞こえた。グリフォンはそれに応じるように頷いている。 「……あの、……ノワール様の声聞こえているんですか」 「……あいつの心の声は全て聞こえる。おまえのつけているコンコルディアなんかよりもずっと細かいところまで」 「……全て」 「……私はおまえなんかよりも、ノワールのことを知っているからな。小僧」  わ、とグリフォンの毛が逆立つ。もしかして敵意を持たれているのだろうか……ラズワードはソレを感じて、参ってしまう。  ちらりとノワールをみれば、タイミングを伺うように魔獣をみつめていた。そして、唇が「いけ」と動く。それと同時に、グリフォンは走りだした。  正面からものすごい勢いで風が向かってくる。グリフォンのスピードは、なかなかに早い。目が回りそうになりながらも、ラズワードは必死に敵の動きを目で追う。ノワールが敵の攻撃をひきつけてはいるが、何本もある手の一部はこちらに向かってくる。グリフォンがそれを避けてくれるが、ラズワード自身も魔術を使ってガードしなければ、攻撃はあたってしまう。  ノワールが遠方から、ラズワードのガードのサポート魔術を使ってくる。これがなければ防御力が下がってしまうため、魔力の消費量があがる。サポートをうけるためにはノワールの視界に入らなれければいけないが、次々と放たれる魔獣の攻撃によってそれは定まらない。  移動するのは、グリフォン。しかしグリフォンの移動する方向によってガードの魔術を放つ向きも変わるため、結局はノワールの指示をラズワードも聞かなければいけない。コルコンディアからは、とめどなく方向の指示が流れてきて、ラズワードはそれを聞きながら脳内で術式をたてる、という2つの作業を同時にやることに必死になっていた。あまり頭を使った戦いには慣れていない。ぐるぐると混乱してきて、頭のなかが飽和してゆく。 「……ド、ラズワード! 正面!」 「……ッ」  グリフォンの叫びによって、ラズワードはハッと目を見開く。真正面からものすごい勢いで魔獣の魔力弾がむかってくる。慌てて魔術でバリアをはり、それを防ぐ。 「――後ろ!」 「えっ」  コルコンディアから、ノワールの声が聞こえてきた。ぞわ、と強烈な寒気がラズワードを貫く。今の魔力弾は――フェイク。長い魔獣の手が、回りこむようにしてラズワードとグリフォンに襲いかかってきた。 ――早い  ばち、と視界に真っ赤な火花が散るような。強烈な衝撃が、全身を襲う。何が起こったのかもわからず、ラズワードとグリフォンはそのまま地面に叩きつけられた。  全身に強烈な痛みがはしる。あまりの痛さに吐き気すらも覚えてきてしまう。すぐ目の前におちてきたグリフォンは消えてしまって(契約獣は大きなダメージを受けると体を休めるため姿を消す)、ラズワードがひとり取り残された。

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