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 レヴィはそんなラズワードを見てにたりとしたり顔で笑う。すっと懐から彼のプロフェットである鉄扇・風姫を取り出すと――それをラズワードに向けた。 「安心しろ、ハル。俺たちには最強の戦力。ラズワードがついてるぜ」 「え――?」  ハルは振り返り、部屋に飛び込んできたラズワードを見つめる。息を切らしているラズワードは、たった今の会話の内容などわかっていないようで、ぽかんと二人を見つめている。ハルはそんなラズワードとレヴィを交互に見て、そして段々と状況がわかってきたようで驚いたように声を荒げだした。 「待っ――ラズはすでにその革命への参加が決定してるってこと!?」 「そう、しかもリーダーとしてだ」 「リーダー!?」 「まあ計画を練るのは俺だけど。対ノワールのときに先陣きってもらうのはラズワード。ノワールに対抗できるのはラズワードくらいだからなあ」  ラズワードは強い、だからノワールと戦うなららラズワードが必要だ――それは、ハルにも理解できた。しかし、頭が混乱してしまって「そうなんだ」なんて軽くは言えない。がたんと立ち上がって、ラズワードのもとへつかつかと歩いて行って、勢い良く肩を掴んで問いただす。 「レヴィの言っていることは本当? 俺、何も聞いてないんだけど!?」 「す、すみません……今日、帰ったら言おうと思って……」 「いや、それはわかったけど……ラズ、あのね、わかってると思うけどこの戦いに参加するっていうことは……」 「……はい、」  ラズワードは申し訳無さそうにうなだれる。  この戦いに参加するということは、神族に歯向かうということ。レッドフォード家の従者でありながら、そのようなことは許されない。革命に参加するためにラズワードに必要となるのは――ハルの従者という役割の解消。レッドフォード家との繋がりを完全に絶たなければいけないのだ。  勝手に、そんなことを決められたのではハルの心も穏やかではいられない。愛するラズワードの決定であっても、それはすぐに受け入れることはできなかった。ハルが黙りこんでいれば、ラズワードはゆっくりと膝をつき、そして、頭を下げる。ハルが驚いていれば、やがてラズワードは絞りだすような声で、ハルに訴えた。 「本当に――申し訳ございません。ハル様のことをお慕いしている気持ちは変わりません。でも……どうしても、神族を討ちたい。この手で、ノワールを討ちたいのです」  震えながら、瞳にわずかに涙を浮かべながら、ラズワードは言った。  自分が革命に参加するということの意味を、彼はしっかりわかっている――わかって上で、この決断をした。それを、ハルはちゃんと汲み取ることができた。だから、彼を止めようという気にはなれない。しかし、ひとつだけひっかかることがあった。 「……なんで、ノワールのことを討ちたいの」 「……っ、それは、」 ――なぜ、ラズワードがそこまでしてノワールを討ちたいのか。  神族がいわゆる暴君であることは、周知の事実。しかし、レッドフォード家の従者となったラズワードは、その影響を今後受けることはない。他の人間が神族に苦しめられているからといって自らの立場を捨ててそのトップを叩こうだなんて行動にでるほど、ラズワードに強い正義感があるとも思えない。それなら、違う理由がある――そう、ハルは思った。  ラズワードはこれまで、ノワールに対して強い執着を持っていた。今回の決断は、そのノワールに対しての何らかの想いが関係しているのは間違いない。それを知らないことには、ハルも納得できなかった。――そろそろ、その想いをはっきりしてほしかった。 「……自分でもわかってないんじゃない? ラズ」 「……、」  ラズワードが目を泳がせたのをみて、ハルはため息をつく。何かを隠しているという目ではない、戸惑っている目だ。それは責めても仕方ないな、と思いつつ――ハルも、ある決断をする。 「――レヴィ」 「おお?」 「……この革命に、俺は必要なの?」 「必要だ。ラズワードにノワールを倒すだけの魔力を温存してもらうために、他の奴だけで邪魔な神族をやらないといけない。その神族との戦闘に耐え得るのは、俺と……それからおまえくらい。ハル、おまえがいなければ今以上に厳しい戦いになるんだ。俺はおまえに革命に入ってもらいたい」  レヴィの言葉を聞いて、ハルは再びため息。仕方ない、といった風だ。しかし、レヴィの言葉に頷く様子はない。頭を垂れるラズワードのあごをくいっと持ち上げ、じっと見下ろすと、言った。 「ラズ、俺の返事は君次第にするよ」 「えっ……」 「俺は別にレッドフォード家に対して執着はないから、レッドフォードとの縁をきっても構わない。ラズのためにレッドフォードから出て行ってもいい」 「ハルさ、」 「――ただし、俺がOKを出すのは、ラズがノワールを討ちたい理由をしっかりと説明してくれたら。ノワールのことをどう思っているのか、俺に教えてくれたら。それからだ」 「……ッ、」  ラズワードが息を呑む。  ハルの言っていることは、ごもっともだ。なぜ革命に参加したいのか、その理由を説明するのは義務であってあたりまえのこと。それがラズワードは欠けていたのだから、こう言われるのは当然だ。しかし、それがラズワードにとっては非常に難しいことだった。自分でも理解できない、ノワールへの感情。知ってしまえば全てが終わる、そんなノワールへの想いをハルに言わなければいけない。すぐには言葉にできなくてラズワードが固まっていれば、ハルがレヴィを顧みる。 「そういうわけだから、今日の今日で返事はできない。でも、ラズが俺に本当のことを言ってくれたなら、それがどんな理由でも革命に協力する。このままレッドフォード家の次男としてだらだら過ごしていてもつまらないから。どうせならラズのためにがんばってみるよ」 「……オッケー。今日のところは引き取りましょう」  レヴィは全てを見透かしたように、笑う。

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