316 / 343
9
「あら、おかえり、ラズワード。ハル様が首をなが~くして待っていたわよ」
「……」
「ラズワード~? きいてる? ラズワード!」
「……あっ、姉さん……ただいま」
「……? ラズワード? 大丈夫?」
レッドフォード邸に帰宅したラズワードは、アザレアの出迎えもぼんやりとして聞き逃してしまった。アザレアはあまりのラズワードの様子に不審がって、じっと顔を覗きこむ。
ラズワードはそんなアザレアにへらっと疲れたような笑顔を返すと、ふらふらと自分の部屋に向かっていった。アザレアと話している余裕などなかったのである。
リリィと決闘をしたとき――ラズワードの心の中で、ひとつの決意が生まれた。誰のために生きるのか、誰を愛するのか。その決意は――ラズワードの全てを破壊する。それを、告白することが……ラズワードは怖かったのだ。
「ちょっとー、ラズワード! ハル様のお部屋に行ってあげてね~? 話があるって言ってたよ~?」
「えっ……は、話……?」
部屋に行って布団をかぶって眠ってしまおう――そう思っていたラズワードに、アザレアの言葉が鉄槌となって襲い掛かる。
――このタイミングで、話?
まだ、すべてに別れを告げる覚悟ができていないラズワードは、ハルの部屋で待ち構えている出来事を想像して眩暈を覚えた。
ともだちにシェアしよう!