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「……すごい、」
ハルの別荘は、レッドフォード邸から離れた田舎にあった。レッドフォード邸がある街中とは違って空が広く空気が澄みわたっている。豪華絢爛なレッドフォード邸ほどとまではいかないが立派な邸宅は、さすがはレッドフォード家の別荘といったところだ。
ラズワードが玄関で呆けていれば、ハルがその手をとって邸宅の中へエスコートする。ラズワードがちらりとハルの表情を伺いみれば……彼はいつもと変わらない柔らかい微笑みを浮かべていた。
「この別荘は、俺が小さい頃にお父様がくれたものなんだ。でも、ほとんど来たことがなかった。来る理由もなければ、一緒に来る人もいなかったからね」
「……そう、なんですか? でも、ハル様は顔が広いし友人も多くて、……」
「……友人か。誘おうと思ったことがないんだよなあ」
「……なぜ?」
「……友人と一緒にいる時間を楽しいと思えなくて」
「――……」
もう一度、ハルの顔を見てみる。しかし、特に表情に影がかかっている、ということはない。
ハルにとって、「他人と過ごすことを楽しいと思えない」という感覚は「あたりまえ」のことだったのだ。表情も変えずに「友人と一緒にいる時間を楽しいと思えない」なんて言った――それが、ハルという人間を表している。
ラズワードも、何度かハルのそういった価値観についての話をきいたことがあった。ハルは他人に特別な感情を抱かない、他人と関わることを面倒だと思っている――優しい人となりからは想像もできない、そんな価値観を持っていた。ラズワードを施設から買った理由ももともとは「人間を相手にするよりも奴隷を相手にしたほうが気楽に性欲の処理ができるから」ということらしい。
「……でも、俺のこと、誘ってくれたんですね」
「……」
ハルがこの別荘に誘ってくれたということが、どういうことか。
それをラズワードは考えて――ずき、と胸が痛む。
彼にとって、ラズワードは、唯一無二の、
「ラズは、世界でたった一人の俺の恋人だからね」
ハルにとっての大切な人。
自分がそんな彼を裏切ろうとしている――ラズワードは自分自身が恐ろしくなって、吐き気を覚えた。やはり、自分はおかしくなってしまったのではないか。たしかにハルのことを愛しているはずなのに、なぜ――……
「そこ、寝室だから。荷物おこうか」
罪の意識に瞳に影を落とすラズワードに、ハルが残酷な笑みを向ける。
優しい笑顔が、つらい。いっそ罵ってくれればいいのに。いや、そうして贖罪をハルに押し付けていることすらも、最低だ。
ハルからの愛を感じれば感じるほど、ラズワードは激しい自己嫌悪に陥った。ハルはそんなラズワードに気付いているのか、いないのか。変わらず手を引いて、ゆっくりと寝室へ入っていく。
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