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――――― ――― ――  人並みの感情は持っていたけれど、人並みの熱情を持っていなかった。  きっかけが特にあったわけではない。強いて言えば、レッドフォード家に生まれたことが原因だろうか。 『あれがレッドフォード家の……』 『英才教育とか受けてるんだろうな、だからなんでもできるんだろ』 『女選び放題でいいよな』  学校にいけば嫉妬や憎悪に取り囲まれて、 『まあ、レッドフォード家のご子息よ!』 『声をかけてもいいかしら……』 『夜は上手なのかしら』  パーティーに出席すればむせるほどの色目を浴びて、 『おまえならレッドフォードを背負っていけるだろう』 『おまえは自慢の弟だ』 『お兄様のこと本当に尊敬しているのよ』  家に帰れば重い期待をかけられる。  それらがハルにとってストレスだったのかといえばそうではない。ただ、めまぐるしく騒ぎ立てる強い「感情」に、疲れを感じた。ハルを取り囲む者たちは皆、それがハルへの好感であろうが嫌悪であろうが強烈な「感情」を持っていた。それに囲まれて育ったハルは、思ってしまったのである。  ――ああ、めんどくさい、と。

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