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4 一緒にねよ?
「パパ」
リビングで一人、ノートパソコンを開いていたら、突然、達二に声を掛けられた。
「達二? 智くんと一緒に寝たんじゃないのか」
「えっと……それが……」
達二の数歩後ろで、智くんがぎこちない笑顔を浮かべて頬を掻いている。
「たーじ、パパといっしょ、ねたい」
「えっ?」
「パパも、いっしょ、ねよ」
達二のおねだりに、俺は思わずぽかん、としてしまった。
律が亡くなる前も、その後も、達二から『一緒に寝よう』と言われたことはなかった。
いや、それどころか、『あのおもちゃ買って』とか、『遊びに行きたい』とか、そういう子供らしいお願いをされたこともない。
「パパは仕事があるから、先に寝ようって何度も言ったんですけど、今日は全然折れてくれなくて……」
智くんもどうしたらいいのか分からないのか、何か言いたげに俺を見つめている。
家事はもちろん、達二の相手も、俺よりも上手くやってのける智くんらしからぬ行動だ。
「パパ、ねよ」
返答しない俺に近寄って来て、ワイシャツの裾を引っ張る達二。
軽いメールチェックしかしていないし、まだまだやらなければいけない仕事はある。
いや、仕事は朝早く起きてやればいい。
今の俺は「父親」だから。
「分かった。一緒に寝よう、達二」
俺がそう言った途端、達二がぱっと顔を輝かせた。
「良かったな、たーじ」
にっといつもの笑顔を浮かべて、智くんが達二の頭をぽんぽんと撫でる。
「しょうがない、俺もたーじと寝たいけど、今日はパパに譲ってやるよ」
「すまないな、智くん」
「いいよ、全然。たーじを思い切り甘やかしてやって。こいつ、子供のくせに遠慮がちなヤツだから」
「ああ、もちろんだ」
「……とーくん、いっしょじゃないの?」
「気にすんなよ、たーじ。俺は一人でも平気だからさっ」
ぐっと親指を立てて明るく笑う智くんに、達二は小さな声でこう告げた。
「とーくんも、いっしょに、ねよ?」
「え」
「とーくんと、たーじと、パパ。いっしょに、ねよ?」
結局、俺も智くんも「三人で一緒に寝たい」という達二のおねだりを拒むことができなかった。
リビングに布団を敷き、俗に言う川の字になって横になった。真ん中には達二がすっぽり収まっているものの、智くんとの距離は思った以上に近い。直視なんてできる訳がなく、俺はニコニコと上機嫌な達二の頭を撫でて、早鐘を打つ心臓を落ち着かせた。
俺たちと一緒に眠れることに嬉しくて興奮していたのか、楽しそうに保育園の話をしていた達二。しかし、布団に入って十五分程経った頃、すやすやと安らかな寝息を立て始めた。
その寝顔を眺めつつ、俺は向こう側の智くんをちらり、と見た。
こちらに背中を向けた智くんが、もぞもぞと微かに動いている。
彼も、眠れないのだろうか。
その原因は三人……いや、子供を挟んでとは言え、わだかまりのある義理の兄弟と布団を並べて横になっていることか。
ふぅ、とため息を一つ零すと、びくり、と智くんの肩が大きく跳ねた。
俺は達二を起こさないよう、そっと起き上がった。
「……太一、さん?」
「一杯、飲んでから寝ようと思う。智くんも飲むかい?」
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