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第4話

「……うん」 そんな泰士の眉目秀麗さに押されてか、俺は何故か頷いてしまった。 でも、一人悶々としながら見るよりは気が紛れるような気もするが、胸が腫れてるなんて理由で病院に行くのは本当にごめんだ。 どうかさっき見たのは間違いだったという展開が訪れますようにと祈らずにはいられなかった。 体育の授業は毎度恒例となっている10分間走から始まる。 その後、準備体操、ストレッチを行ってその日に受ける授業内容が始まるのだが、この日はバスケットボールだった。 泰士は部活動に所属しているわけでもないのに運動全般がよくできる。 もちろんこの日もドリブルで魅せ、的確なパスとシュートで隣のコートで体育をしていた女子の視線を一人占めしていた。 俺はというと─。 運動はからきしダメで、最初の10分間走で既にへとへと。 けれどそんな態度を表に出すわけにもいかず、できないなりに遅れを取らないよう必死についていくだけだった。 できない様子を全面に出すと悪目立ちするし、そうなりたくないから必死だ。 その根底には自分がβであることをアピールしたいという気概があった。 Ωと知れた瞬間に自分の立場が危ういものとなるのを避けるためだ。 幸いにも未だαに出会ったことはなく、爆発的なΩの性フェロモンを出す発情期も訪れていない。だからきっと誰にも知られることなどないと思っていた。 運動が得意な生徒は泰士だけではない。他にももちろんいる。そしてそれを俺は人とは違う目で見ている。 浅ましくも無意識にしてしまうα探し。 体育の時間は優秀な運動神経の持ち主のバース性判別に忙しいんだ。 「秀哉!パス!」 「っ……」 突如名前を呼ばれハッとした。ぼうっとしている場合じゃなかった。 俺はすぐに泰士にパスを回し、泰士がシュートを放つ。パスッと小気味の良い音がしてボールは綺麗にゴールネットの中へ落ちていった。 「ナイスパス」と言ってクラスメイト達が俺の頭を撫でていく。 普段からぼうっとしてる俺だけど、不思議と周りは俺に優しい。良い行いをした覚えもないけれど、人徳ってやつだろうか。 それよりも胸が体操着に擦れてピリピリと痛みを感じる。 体操着の下は一体どうなっているのか、後で見るのが少し怖かった。

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