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第6話
俺の腕が無意識に体の正面でクロスして胸を隠す。
「女子じゃないんだからそのポーズはなしな」
「あ、ちょっとっ」
泰士に腕を掴まれそのまま開かれた。
自分でも確認しようと思っていたので自然とそこへ目がいく。
「う、わ……。うまそ……」
泰士が何かぼそりと呟いたが、よく聞こえなかった。
それよりも俺の胸が問題だ。
色づき始めたさくらんぼのような色合いでぷくんと腫れ、乳首がつんと立っている。
急にこんな風になるなんて、やっぱりどこかおかしい。
まさか発情期が近いのだろうか?
でも発情するのに胸が変化するなんて教えてもらったことはない。
いや、しかし……万が一ということも考えられる。
万が一そうだったとしても、発情抑制剤は持ち歩いているから大丈夫。
それにΩの俺に発情するのはα。
希少なαが身近にいるとは考えにくかった。
「ちょっといい?」
「何、くすぐったい」
泰士は俺の首筋に顔を近づけた。すん、と匂いを嗅ぐように鼻を鳴らす音が微かに聞こえた。
「は……可愛い。いい匂い」
「え……なに……?」
─もしかして……。
その時俺の本能が警告した。
泰士を警戒すると同時に突如、手が勝手に項を隠す。
反対の手で泰士の胸をぐっと押し返した。
「だ、だめだっ」
泰士を見る俺の目に、恐怖の色が浮かんだ。
もしも泰士がαで、俺のΩに気づいたら?今ここで俺はどうなる?何をされる?
泰士は一瞬驚いた表情を見せたがそんな俺を見て、いつもの笑顔になる。
女子の好きな甘いイケメンスマイルだ。
けれどこの爽やかな笑顔の下に獰猛なαの血が流れていたとしたら……?
まさか……レイプされるのか?そう考えて後頭部がサーッと冷えていった。
「大丈夫だよ秀哉。俺は誓って秀哉にひどいことしたりしないし誰にも言わない。俺さ、秀哉のこと入学式の時から同じ男なのに可愛いなって思ってたんだ。どうしてこんなに惹かれたのか今確信した」
泰士に腕を掴まれぐっと引かれて、泰士の腕の中に収まる。
抱きしめられていた。どくんと心臓が大きく脈打つ。
「……何のこと」
「本当に本能で惹き付けられるんだな。こんなの初めてだ。秀哉、俺はαだよ」
「……!」
緊張で呼吸が浅くなった俺を泰士はただずっと抱きしめてくれていた。
上半身裸の状態で抱き合っていたなんて、傍から見たらかなりやばい。
しかし幸いにも誰に見られることなく事なきを得た。
そして。この日、この時から、俺の身体は急速なスピードでΩとしての機能を開花させ、親友だった泰士に、友情以外の違う感情を持つようになってしまったのだ。
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