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第9話
─こんなの変だ……。
だって昨日の今日で泰士に対する気持ちがこんなにも変化するなんて。
どうしよう、泰士から目が離せずにいる。勝手に視線が泰士を追ってしまう。
確かにこいつ、元々カッコ良かったけど……。
項を押さえながら上目遣いに泰士を見ていると、泰士のきれいなアーモンド形をした奥二重の眼がとろりと緩んだ気がした。
「ちょっ、むっ、無理無理っ!」
「急に何だよ、無理って何が?」
「何って、その、泰士がカッコ良すぎる!」
─あ……、言っちゃった。
何がと聞かれて思わず思ったままを口にしてしまった。俺ははっとして顔を泰士から背ける。
やべぇ、俺何口走ってんの!!こんなこと言ったら意識してるのバレバレじゃないか……?
俺は再びそろりと視線を泰士に向ける。
泰士はきょとんとした顔で俺を見ていたが、数秒経過するとにまりと意味ありげな含み笑いを漏らした。
「やっと俺のこと気になりだした?」
「やっとって何だよやっとって……」
「俺は入学式の時から秀哉のことかなり気になってたんだけどな」
「でもさ……、でも……」
それは俺がΩで泰士がαだから?
今まで親友として過ごしてきた時間は一体何だったのだろう。
ついこの間まで、泰士に対してこんな変な気持ちは微塵も持ち合わせていなかったのに。
「でも?」
「その……、俺達友達、だよな」
俺がそう言うと泰士はよくわからなかったのか「ん?」と聞き返す。
「今までそうだったみたいに、これからも友達として一緒に過ごしたいなって」
だって今まで普通に友達と接してきてとても楽しかったし居心地もよかった。
それがバース性のせいでどこか狂ってしまうのは、なんとなく嫌だと思った。
泰士はうーんと腕を組み、何か考え込む仕草を見せて、「まぁいいか」と呟いた。
「秀哉がそうしたいならそれでいいけど」
「良かった」
俺はほっと胸を撫で下ろし、泰士に向って微笑んだ。
泰士も俺を見てにっこり微笑む。
それを目にすると同時に、心臓がばくばくと大きく鼓動した。
何で!?
言ってることと、俺の心と身体が、ちぐはぐな動きをしている。
これ……相当やばいんじゃないだろうか……。
いつも通りの距離感で、いつも通りに接することなんて本当にできるのか。
俺は学校に着くまでの道のりを、泰士を時折見つめてはどきどきと胸を高鳴らせながら歩いたのだった。
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