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第10話

バース性を隠していても、それが優秀なαだったり、フェロモン過多なΩであれば内からそのフェロモンが溢れ出るものなのだろう。 そしてそのフェロモンに影響されにくいとされるβにもわかってしまうのではないか。 俺が今どうしてそんなことを考えているかというと、それは目の前で泰士がもてているからだ。 昼休みはいつも泰士と一緒に昼食をとるのだけれど、その前に女子が泰士に差し入れをする。 あわよくば一緒にお昼食べましょうってことなんだろう。 だけど泰士は俺を優先する。 女子はそれでもいいみたいで、最悪、自分の差し入れを渡せればそれで満足しているようだった。 いつものことだけど、こうして見ているとどうして今まで泰士のバースに気付かなかったのか不思議ですらある。 見た目もよくて、勉強も運動も人より秀でている泰士。 αの要素は大いに目に見えていた。 けれど俺の発情期が近くなって、泰士に触れられてから気付いたのだ。 ってことは、やっぱりαのフェロモンを感じたってこと? ……完全に友達目線だったんだよな。それがなんで急に。αだから気になるっていうのは、恋とは違うよな……。 俺は恋がしたいんだけどな……。 恋じゃないのにドキドキしたりするのは、……なんでだ? ぼうっと泰士を眺めながらそんなことを考えていると、泰士が俺の視線に気付いた。 「昼飯行こうぜ、秀哉!」 「あぁ、うん」 泰士の周りから「じゃあ次は絶対ね」と、約束を取り付けるようにして女子達が離れていく。 泰士は女子に「ごめんね」と言って席を立った。泰士の両手には女子からの差し入れスイーツが乗っている。 「カップケーキとかクッキーもらったから後で食べよ。秀哉甘いの好きだよな」 「うん。けど、泰士がもらったのに俺が食べてるのばれたら大変なことになりそうだな」 「食レポしながら食べてくれ。そしたらそのままの感想を女子に伝える」 「ははっ、ひでぇ」 俺は泰士と目を見合わせてくすくす笑った。 不意に耳元に泰士の唇が寄せられて「可愛い」と囁かれ、どくんと大きく心臓が波打って、俺は「へぁっ」と変な声を上げた。 それを見て泰士がまた笑った。 「なっ、中庭行こっ!」 これ以上の失態を晒すのはごめんだとばかりに、俺は慌てて立ち上がり弁当を持って教室を出た。 泰士も慌てて弁当と女子からもらった差し入れを抱え俺を追うようにして教室を後にした。

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