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第11話

教室棟と管理棟を繋ぐ渡り廊下の脇に、生徒達の憩いの場である中庭が存在する。 天候の良い晴れた日などは、真夏のカンカン照りの日でない限り、中庭は昼休みの人気スポットだ。 梅雨時ではあるが幸いにも現在は曇りである。 しかしいつ降り出してもおかしくないくらい灰色の厚い雲がもわもわと空を漂っている為、生徒は極まばらだ。 俺と泰士は渡り廊下から上履きのまま中庭へと降りた。 「雨降りそうだな。やっぱりここで食べんのやめる?」 「いや、人いねぇし丁度いいじゃん。ここで食お。それに俺、秀哉と二人きりでゆっくりしたい」 そう言って泰士が俺の顔を覗き込んだ。 「うぉぅ……」 不意に泰士の顔が近づき、俺はびくっと後退りしてしまった。 ほんとにやめろよ、イケメン。びっくりする……。 「いいだろ」 「うん……別に雨降ってないしいいよ」 「よしよし」と言いながら泰士は花壇の縁に腰かけた。 俺も泰士の隣に腰かけて膝の上に弁当を広げる。 食べ始めの数分間は互いに無言でもくもくと食べる。腹が減ってるから。 いつもみたいにがつがつと弁当を食べていると、隣の泰士の手が止まっていることに気付いた。 「……食わねぇの?」 「食うけど……、秀哉の食いっぷりに見惚れてた」 「見惚れてたって……」 αの匂いに過敏になって昨日よりも強く泰士を意識している俺同様に、泰士もまたおかしくなっている。……多分。 「なぁ、俺の気のせいだったら自意識過剰っぽくて恥ずかしいんだけど……」 「ん?なにが?」 泰士は俺を見ながらのんびりと卵焼きを口に入れた。 「お前、俺のこと何気に口説こうとしてない……?」 すっごい、すっごい恥ずかしいことを聞いている自覚はある。 違っていたらものすごく恥ずかしい。 けど、なんだか少し居心地が悪い。それは多分、泰士が俺を見る目がいつもと違うから。 咀嚼していた卵焼きを飲み込んで、泰士が口を開いた。 「まぁ……そうなのかな……。俺もよくわかんないんだよね。別に口説くつもりはないんだけど、気付くと秀哉に優しくしたいって思ってて。秀哉、昨日より可愛くなってるし」 「かっ、かわっ……!?ど、どこら辺が!?」 俺だって泰士のことが昨日よりもイケメンに見えてるけど、同じ現象がそっちにも起きているということか? もう訳がわからない……!

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